ヴィクトール・フランクル「夜と霧」レビュー〜メンタルが弱っている人は注意!〜
ナチスの強制収容所経験に基づくヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」を読みました。
「アンネの日記」と並ぶベストセラー。
「言語を絶する感動」と評されることもあるそうですが,私は「淡々と,深く静かに突き刺さる真実」という印象を抱きました。
【目次】
【収容所の悲惨】
全体を通して,著者はことさらに感動をあおる表現でなく,淡々とした筆致で綴っています。
その中でも,「私はとても耐えられない!」と思ったエピソードを紹介します。
- 着の身着のまま,何ヶ月間もシャワーもなし
- 寝る時は密着したざこ寝状態で,枕はなしか,泥だらけの靴が枕がわり
- シラミのかゆみで,眠りがしばしば妨げられる
- 靴紐がないので,針金を靴紐がわりにする
- 栄養失調で足がパンパンにむくみ,靴下を脱がないと足が入らない
- 顔色が悪いと見られてガス室送りにならないよう,ガラス片でヒゲを剃る
- 氷点下の極寒でも,上着なしで強制労働に従事
- 少年の足の指が壊死してピンセットで引き抜かれても誰も無反応
- 死人が出ると,皆で群がって衣服など使えそうなものをはぎ取る
<アマゾンより>
【悪夢にうなされる者を起こさない】
ある夜,男のうなり声で,筆者は目を覚まします。
ひどいうなされようで,相当な悪夢を見ていると察せられます。
「揺り起こして,悪夢から解放してあげようか?」と考えたものの,やめます。
なぜなら,どれほどの悪夢であろうと,この現実より酷い状態など考えられないからです。
【希望にすがった者の最期】
ある男は,「クリスマスに収容所から解放される夢を見た!」と喜びます。
男は希望を信じて,明るく前向きに過ごし始めます。
しかし,クリスマスが近づいても,ドイツが軍が劣勢とか,収容所が解放されそうな情報は聞こえてきません。
男は次第に元気を失い,流行していたチフスに感染してしまいます。
クリスマスの翌日,男は亡くなりました。
夢で見たとおり,男は収容所の苦しみから解放されたのです。
<Photo by Sharon McCutcheon on Unsplash>
【テヘランの死神】
「テヘランの死神」という興味深いエピソードが登場します。
ある日,奴隷が死神に出くわした。
驚いた奴隷は主人に馬を借り,死神に捕まらないよう遠くテヘランへ逃げた。
その後,主人が死神と出くわした。
主人は尋ねた。
「なぜ,奴隷を驚かすようなことをしたのだ?」
死神は答えた。
「驚いたのは私の方です。だって今夜,テヘランで奴隷を捕まえるつもりでしたから」
つまり,「死の運命からは決して逃れられない」ということ。
強制収容所でも,「生きる確率が高まる」と思える選択した結果,死を早めたり,反対に「死の確率が高まる」と思える選択をした結果,かえって生き延びたり,「逃れられない死の運命」がすぐそこに,まざまざと感じられます。
【まとめ】
本書は,ふらりとしたかるい気持ちで読むと,暗く,重たい世界に精神が持って行かれるかもしれません。
私はオーディオブックで聞いたのですが,男性の低い,渋いナレーションの声が輪をかけて暗く,重たい気分にさせてくれました(苦笑)
「読者の選ぶ21世紀に伝えるあの一冊」のアンケート調査(読売新聞)で,世界の名著部門の第3位となったこともあり,時代を超えた名作であることは間違いありません。
心身のコンディションが良いときに,一度は読むことをオススメします。
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