「達人伝」感想(第193話・蕞の気炎)

「達人伝」感想(第193話・蕞の気炎)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は「第193話・蕞(さい)の気炎」です!

<丹の三侠〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜盗跖の血〜 

鍬で墓を掘る邦(バン)。

横たわっているのは,いくつもの首のない死体。

邦は,駆けつけてきた部下たちに,墓掘りと盗跖(とうせき)姉さんの形見を根城に届けてほしいと頼みます。

 

なぜ邦は,盗跖軍が秦軍に襲われたのがわかったのか?

胸騒ぎなどというものではなく,激しく体の奥底から呼ばれたから。

もしかして呼ばれたのは,俺に流れる盗跖の血なのかもしれない,と邦は言います。

 

しかし,まだ止まない胸騒ぎ。

「なんだ この胸騒ぎは!?」

丹の三侠の顔が浮かび,邦は不安に襲われます。

<盗跖の血を引く劉邦漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜血と遺伝〜 

先日,是枝裕和監督の映画「ベイビー・ブローカー」を観てきました。

生まれてきた命の重み,血のつながりを考えさせられる,素晴らしい作品でした。

 

是枝監督作品といえば,「そして父になる」がお気に入り。

生後直後,取り違えて育てられた子供たちが,成長してから真実を知り,どちらの家庭で暮らすべきか親子ともども葛藤する話です。

「産みの親と育ての親,血のつながりと共有時間のつながり,どちらが大切?」という,ある意味で究極の問い。

 

一般的には,「そりゃ,育ての親の方が大事でしょう!」となりそうですが,是枝監督は綺麗事で済まさない。

知的レベルの高い親からは,同じような子供が生まれる可能性が高いし,運動神経が良い親からは,運動音痴の子供が生まれる可能性は低い。

 

才能は遺伝する。

努力より才能の影響の方が大きい。

身も蓋もない話ですが,人々がうすうす気付いているけれども,目を背けている真実ではないでしょうか。

 

もちろん,努力の有用性や育ての親を否定するつもりは,まったくありません。

ただ,現代社会は才能や遺伝の影響を軽視し,努力やGRIT(やり抜く力),レジリエンス(強靭さ)で成功できる!とする風潮が強いように思います。

本人がそうしたいのなら,べつにかまいませんが,世の中それほどあまくない。

まるで才能のない分野でしゃかりきに頑張っても,周囲に認められるような成果を出すのは難しいでしょう。

 

盗跖の血。

強烈な個性,特性を持つ人物の血や遺伝子は,脈々と受け継がれても不思議はありません。

達人伝〜廉頗の帰着〜

廉頗(れんぱ)が函谷関に到着。

感慨に耽る廉頗に,連合軍総司令官・龐煖(ほうけん)は,衛兵が全く配備されておらず関門すら開け放たれていたこと,この先の潼関(どうかん)も同様と話します。

内部へ引き込む秦の策謀だろう,と廉頗。

廉頗は,信陵君の食客だった人々を集めて挙兵した張耳(ちょうじ)を龐煖に紹介します。

 

「いよいよ秦都侵攻か!」と鼻息の荒い趙将・孟梁(もうりょう)も到着。

龐煖は,廉頗の負傷が深いと見てとり,この函谷関で打ち払った敵の反撃に備えてほしいと要請。

廉頗は,承知したと言いつつ,必ずや前線で戦う機を与えてくれるよう,龐煖に釘をさします。

達人伝〜レジェンド廉頗〜

廉頗が登場すると,何とも言えない安定感やカリスマ性,いわゆる華があると感じます。

 

先日,ひろゆき氏の本を読んでいたところ,「優位な立場で仕事を進めたいなら,体を鍛えて大きくしろ」とあり,なるほどと思いました。

しょせん,人間も動物なので,相手が自分より背が大きかったり筋骨隆々だったりすると,本能的に無意識のうちに「こいつには勝てない」「この人は頼りにできそうだ」と感じ,仕事へ如実に影響するという話です。

 

最近だと,ドナルド・トランプが長身で(190cm),その考えや言動はさておき,「力強いリーダーとして我々の利益を守ってくれるだろう」と,無意識のうちに人々を魅了したのではないでしょうか。

もし,トランプの身長が平均より小柄な160cm程度だったりしたら,当選することもなかったのではないか,と想像します。

 

曹操豊臣秀吉,ナポレオンは小柄だったようですが,個の武を本領とする武将系で体格が小さかった人物は,あまり思い浮かびません。

レジェンド廉頗も,おそらく長身だったり,相当マッチョな体格だったことでしょう。

達人伝も最終章,廉頗のさらなる活躍に期待したいと思います!

達人伝〜秦王の弟〜

場面は,秦の蕞(さい)城。

秦王の異母弟・嬴成蟜(えいせいきょう)が,「軍事に内政 あらゆることを細部まで己が意のままにせねば気が済まぬのか!」と,憤然とした表情で兄の秦王との会話を回想します。

 

秦王は,まず「余と似た所が皆無の弟よ」と皮肉。

続いて,蕞での戦闘の狙いは,すぐ西の都の民草を恐怖に追い込むことであり,激戦を演出した後に徐々に攻撃の手を緩め,敵を調子づかせて突破させてやるよう命令。

 

回想から戻った成蟜は,なにが演出だ!戦闘は伎芸ではない!と怒り心頭。

敵が陣を進め始めたとの報告に,「撃破するぞ!」と指示。

そもそも,民に恐怖を強いるなど,王の考えであってはならぬのだ!と固い決意で進軍します。

<秦王の異母弟・嬴成蟜〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜成蟜〜

異母弟の成蟜は,父である前秦王・子楚に似ていますね。

父子なので,似ているのは当たり前ですが,現秦王・嬴政の実父は呂不韋

父も母も異なるこの兄弟が似ていないのは,当然といえば当然でしょう。

 

史実では,成蟜は謀反を起こして死亡することになっています。

兄の秦王への反感と,本気で連合軍を撃退しようとする行為すら,秦王の計算の内という気もしますが,この成蟜の存在が意外と重要な役割を果たしそうな予感がします。

達人伝〜秦に勝つとは?〜

秦軍へ向け,進軍を開始した連合軍・丹の三侠。

無名(ウーミン)と庖丁(ほうてい)が左右から揺さぶりをかけ,荘丹(そうたん)は好機を捉えて中央を衝き,敵指揮官の力量を量る作戦。

 

「秦に勝つとは何だ?」と問う荘丹。

秦以外の国を消し去る野望を粉々に打ち砕くこと,と無名。

二度と中原に攻め出る気が起こらないくらい戦意をぶっこ抜くこと,と庖丁。

 

「勝てるか秦に?」と問う荘丹。

勝ったる!と無名。

勝たにゃならねえ!と庖丁。

 

無名は,秦に勝ったらこの世で一番うまい飯を食わせろよと言い,包丁は,必ず勝って食わせてやると答えます。

 

「勝とう 勝てるぞ 今の秦に白起はいない」と荘丹。

丹の三侠は,命の気炎をまっ赤に燃え盛らせ,秦軍に突っ込んで行きます。

<気炎を上げる荘丹〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜流氓の戦い〜

秦の始皇帝が確立した中央集権独裁体制は,ある意味でもっとも効率の良い政治体制です。

中国は,とにかく人が多い。国土も広い。

貨幣,計量単位,法律などのルールが地域によってバラバラでは,トラブルや非効率的な面もさぞ多かっただろうと想像できます。

 

特に,戦乱,災害,病疫が流行る非常時においては,独裁者のリーダーシップのもと,トップダウンの施策を取った方が有効な結果をもたらす例は,しばしばあります(現在の中国におけるコロナ対策など)。

 

しかし,イギリス元首相チャーチルは言いました。

民主主義は,最悪の政治形態である。これまで試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除いて。

 

つまり,中央集権独裁体制の最大の弱点は,リーダーが誤った対応をした際に,社会が取り返しのつかないダメージを負うこと。

毛沢東がスズメを害虫に指定した結果,人々がスズメを捕まえまくり,それまでスズメが食べていた穀物の害虫が爆発的に増加して数千万人が餓死した事実は,その際たる例といえるでしょう。

 

個性や多様性を尊重し,時間をかけて話し合いを重ね妥協点を見出しながら施策を進めていく民主主義は,きわめてコストのかかる政治体制です。

切迫した非常時には,機能不全に陥ることもしばしば。

しかし,人類が経験してきた中では,一番ましなのでしょう。

 

中央集権独裁体制は,しばしば公権力者(=紳士)が良かれと思って推進したがるもの。

その流れを止めるのは,丹の三侠のように,無名で無数のつながりを持つ流氓(りゅうぼう)しかいないのかもしれません。

<丹の三侠〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜白起の再現〜

丹の三侠が噴き上げる気炎を感じ取る秦王。

成蟜率いる秦軍に襲いかかる,丹の三侠。

秦王は,「うってつけだ」「もっと激しく 上げろ上げろ」「都の民草が感じ取って より戦(おのの)く」「そして一気に鎮めれば さぞかし痛快」。

「楽しみだな 白起がやった生き埋めの再現」と続けます。

<罠を張り待ち構える秦王〜漫画アクション2022/7/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜まとめ〜

秦王の戦略の全容が明らかになりました。

連合軍を油断させて深く引き入た後,強力な異民族軍団で撃破し,生き埋めに追い込む。

白起が長平の戦いで行った趙兵の生き埋め20万人は,残虐でめちゃくちゃエグかった。

あれを再現しようというわけです。

 

現実に,そんなことが可能なのか?

天才的な用兵術を持つ白起以外の者にできるのか?

丹の三侠の運命はどうなる?

次回の展開に乞うご期待です!

 

余談ですが,2019年に達人伝の感想を書き始めて,今回で40回目くらいになります。

毎回,あちこちに空想夢想が飛ぶ脱線ばかりですが,おつきあいいただいている読者の皆さまには,心より感謝申し上げます。

これまで書き散らかしてきたものをまとめたら,1冊の本にならないか,達人伝の魅力発信に微力ながら貢献できないか,とふと考えたのですが,ちょっと厳しいですかね(笑)

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