「達人伝」感想(第174話・天命を繋ぐ)
「達人伝」感想(第174話・天命を繋ぐ)
「蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します!
今回は,「第174話・天命を繋ぐ」です!
<将軍・廉頗〜漫画アクション2021/3/2発売号「達人伝」より>
【目次】
達人伝〜廉頗の判断〜
前回は,秦将・王翦(おうせん)が炎車(えんしゃ)を廉頗(れんぱ)軍に突入させ,煙幕の向こうから弩を打ち込む展開で終わりました。
一旦,射程外まで退くよう指示する廉頗。
「この煙幕の晴れ際こそ 敵の攻め際だ!」「また弩か?あるいは何か別の手か?」「いずれにせよ まず敵将を知る!」「晴れ際に先鋒50騎で突入だ!」と,自ら先頭を切って王翦軍へ突撃。
すると,王翦軍は陣を引き下げており,両側から矢が打ち込まれます。
一見,ただの矢の攻撃ですが,これ,めちゃくちゃ厄介なやつですね!
真正面から打ち込まれる矢は,正面方向に注意すれば,ある程度対処することが可能。
しかし,斜め方向から,しかも両サイドから角度をつけて飛んで来る矢への対応は,きわめて困難。
射線の交差点上に誘い込み一斉射撃で敵の殲滅を図る,現代戦でいう「十字砲火(クロスファイヤー)」です。
自身も矢を受け,しかし「怯まず 突っきれい」と叱咤する廉頗。
うーん,この廉頗の判断はどうなんでしょう?
廉頗の目的は,敵将を見定めること。
先鋒50騎で突入して多少の犠牲は払っても,廉頗軍全体に影響を与えることはなく,まさか自身が討ち取られるとは想定していない。
しかし,必殺の十字砲火に誘い込まれ,自身も矢傷を受けた状態での突撃は,妥当な判断なのでしょうか?
ナポレオンいわく「戦の勝敗を決するのは,4分の1は敵味方の兵力のバランス,4分の3は戦士の勢い」。
おそらく,廉頗は歴戦の経験から,「ここは勢いで突破!」と考えたのでしょう。
が,王翦は「個々の武運まかせの 無謀な突進」「そして 廉頗自身の武も損なわれた」と冷静に分析。
用意周到な狩人のような王翦を前に,さすがの廉頗も「詰み」ではないでしょうか!?
<突撃する廉頗〜漫画アクション2021/3/2発売号「達人伝」より〜>
達人伝〜秘剣・絶界!〜
「桓齮!廉頗をとるぞ」と王翦。
冷静沈着な王翦も,行ける!と踏んだのでしょう。
胸に受けた矢が抜けず「力が入らん!」とあせる廉頗を守るように,丹の三侠が前に出ます。
王翦は「廉頗の前に出た三人」「武具 筋骨 ともに並以下」と,なおも冷静に観察。
しかし,ここで荘丹の秘剣・絶界が発動!
王翦は,剣を天へ放り投げてしまいます!!
このような反則級の技を見せられては,王翦も桓齮も廉頗も,みんなあっけに取られますよね(笑)
理外の理。
ここまで,王翦は完璧でした。
一手一手,周到に積み重ねてきた戦術が,思いもよらぬ奇手一手で崩壊。
ちょっと,王翦に同情したくなります(笑)
あ,よく見ると,庖丁さんも桓齮の馬に牛刀を差し向け,落馬させています。
今まで,叔父貴の牛刀に頼ってきた庖丁が覚醒して独り立ち!!
「感覚をおさえ 心神が前に出ようとする 精なる神の導くままに」
なかなか難解でわかりにくい荘子の言葉ですが,現代風に解釈するなら,フロー状態やゾーンに近い感覚でしょうか?
王翦のように分析的,論理的に考えたり,恐怖や怒りの感情に身を任せるでもなく,自身の本能や直観を信じて,目に映るまま,あるがままに委ねる。
宮本武蔵いわく,「千日の稽古を鍛となし,万日の稽古をもって錬となす」。
荘丹の秘剣・絶界や庖丁の秘技は,そのような鍛錬の末に得られる境地かもしれません。
しかし,この絵,凄くないですか?
王翦,桓齮,荘丹,庖丁,無名,廉頗の6人馬が交差する一瞬を描いた絵の躍動感が,たまりません!!
仔細に見れば見るほど,1人1人,1匹1匹の視線や顔の向きなどの表情と手足の動きに物語が感じられ,じつに味わい深いです。
<荘丹の秘剣・絶界〜漫画アクション2021/3/2発売号「達人伝」より〜>
先日,神田房枝さん著「知覚力を磨く」という本を読み,非常に勉強になりました。
まさに,ゴンタ先生の絵は,さまざまな工夫やたくらみ(もちろんいい意味で)が施されており,じつによい知覚力のトレーニングにもなると思います。
達人伝〜謎の将・黄壁〜
剣を放り投げてしまった王翦は,それでも弩兵に攻撃するよう指示しますが,無名(ウーミン) が王翦に剣を突きつけ,弩も剣も捨てるよう秦軍に勧告。
すると,「刎ねるなら 刎ねるがよい! 」「代わって この黄壁が指揮を執る」と秦将・黄壁が登場します。
「黄壁?……」
この王翦の反応から察するに,「黄壁?誰やねんそいつ!」あるいは「黄壁?あのザコかいな!」といったところでしょうか(笑)
この黄壁,将軍級の重厚で立派な鎧を着て酷薄苛烈,デキる雰囲気がプンプンしますが,なんだか胡乱で,不穏な印象が拭えません。
ひょっとして,秦王にその才を見出され,戦場へ行くよう直々に命令を受け,軍監的な立場で登場したとか?
ググってもヒットせず,これまでゴンタ先生の作品には登場したことのないニュータイプのキャラクターのように思えて,ちょっとワクワク。
黄壁いわく,「将の首ひとつのために 武器を捨ててはならない!」「戦はまだ始まったばかりだ!」
いや,秦軍全体の情勢を鑑みれば,そのとおりかもしれませんが,王翦軍の兵士にすれば,突然登場した見知らぬ人にそんなこと言われても,「え,えーっ!?」と受け入れがたいでしょう(笑)
しかしなんと,そんな黄壁の無茶ぶりにまっさきに応えたのが,敵の廉頗。
「然り」「まさに これからだっ!」「孟梁ーっ 全軍を発進せいー!」と,まだ秦軍が投降するかもしれない微妙な空気をぶち壊し,戦局をカオスへと動かし始めます。
廉頗はいくつになっても,とことん戦が好きな戦人(いくさびと)なんですね(苦笑)
以前,とある政治家(60代)に相談した際,面倒ごとは避け平和路線で行けるよう調整をお願いしたのですが,彼は「最近退屈していた。荒れそうで楽しくなってきたな。フフフ」と笑うんですね。
「先生,そんな余裕ないですよ〜勘弁してくださいよ〜」と言いましたが,「フフフ」と笑うのみ。
「戦人のように生来のケンカ好き」「どれだけ荒れても乗り切る自信があるんだな」「くぐってきた修羅場の数が違うのだろう」と舌を巻きました。(実際けっこう荒れましたが,乗り切りました)
<秦将・黄壁〜漫画アクション2021/3/2発売号「達人伝」より〜>
達人伝〜天命を繋ぐ〜
連合軍総司令官・龐煖 (ほうけん)。
右翼に廉頗,左翼に項燕を配し,中央本隊を龐煖と李牧が率いる贅沢な布陣ですが,秦軍前軍が蒙武から蒙驁(もうごう)に代わるや,攻めあぐねています。
そこで,盗跖軍と劉邦軍を合体させ,先鋒として敵陣中央を衝くよう指示。
「くらえ 蒙驁」
いいですね,この龐煖のセリフと表情と間合い!
個の武においても,全軍の指揮においても隙を見せない蒙驁に,予想の斜め上を行くとっておきの隠し玉!
劉邦はいいます。
「盗跖姐さん!あの敵の大将 あの白馬のじいさんは ただもんじゃねえ!」
「だけど 戦はひとりの武でもねえ!おいら達で ぶっこ抜こうぜ!」
ああ,劉邦は戦の何たるかをわかってるんですね。
中学生のとき,はじめて司馬遼太郎先生の「項羽と劉邦」を読んだ感想は,「なんで,天下無双の項羽が敗れ,これといってとりえのない劉邦が天下を取れたんだ!?」という素朴な疑問でした。
四面楚歌の後,項羽は「自分が弱いから滅びるのではない。天が自分を滅ぼそうとするから滅びるのだ」ということを証明すべく,わずかに残った部下たちと突撃を繰り返しては宣言どおり生還しましたが,再起は難しいと悟り,自刎して果てます。
まさに,戦はひとりの武で決まるものではないんですね。
そんな劉邦に,盗跖は先鋒の指揮を託します。
「天の時を盗む」「それがあんたの天命だよ」
これは,荘丹が8代目盗跖(現盗跖の兄貴)に投げかけた言葉でした。
天の時を盗むとは?
劉邦はこの言葉をどう捉え,どう行動に活かすのでしょうか?
次回,「第175話・秦の様態」に乞うご期待です!!
<劉邦と盗跖〜漫画アクション2021/3/2発売号「達人伝」より〜>
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