「達人伝」感想(第172話・帝国の絵図)
「達人伝」感想(第172話・帝国の絵図)
「蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します!
今回は「第172話・帝国の絵図」です!
<漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より>
【目次】
達人伝〜首塚〜
前回のあらすじと感想はこちら!
今回は、衝撃的なシーンからスタートします。
魏将・晋遼の首塚を目にする廉頗(れんぱ)。
このむき出しの首塚は生々しくて、ちょっと細部まで正視できないですね……
<首塚に憤怒の表情を浮かべる廉頗〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
先日、「ヘルムート・ニュートンと12人の女たち」という映画を観ました。
ヘルムートは、20世紀に最も世間を騒がせたといわれる写真家。
ユダヤ人のヘル厶ートはナチスの迫害を逃れ、死と恐怖の対極にある女性の強さと美しさを求める写真を撮り続けました。
生前、ナチスの迫害についてほとんど語らなかったヘルムート。
インタビューの中で、「僕は現実がとても怖いんだ。カメラ越しに、ファインダー越しに見ることで、なんとか現実を受け止めることができるんだ」と語っていたことが印象に残っています。
この首塚、こわがりやの私的にはヘルムート同様、何らかのフィルター越しに見ないと、おっかなくてしかたないですね……
日々の生活でビビりまくっているので、ホラー映画など好んで観ようと思いませんが、「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦先生はホラー映画が大好きとのこと。
ひょっとすると、ゴンタ先生もホラー映画などがお好きなのでしょうか?
自身の中に潜む残虐性や醜悪さは否定しませんが、寝た子を起こすような気がして、あまり刺激したくありません(笑)
もしかすると、恐怖や嫌悪感を刺激される作品を鑑賞することで得られる創造性やインスピレーションなどあるのでしょうか?
ぜひ、ゴンタ先生に聞いてみたいところです!
達人伝〜首の意味〜
さて、ここで少しばかり「首」の意味を考察してみます。
現代人の感覚では、にわかに理解しがたいですが、殺した人の数で論功行賞が行われた戦国時代は重要な意味がありました。
私の知る限り、敵の首を論功行賞の基礎とする風習は、中国や日本の戦国時代にはしばしばありましたが、西洋では少なくても帝政ローマ以降はあまりないように思います。
現実問題、敵の首を斬り取って、それをぶら下げながら戦うのは、ものすごい重労働でしょう(想像したくない)……
兵個人に対する論功行賞を行うためには、その証拠となる首を取る行為が必要。
しかし、敵軍を駆逐・殲滅するという軍組織の目的から考えると、合理的な行動とはいえない。
首を斬って持ち運ぶ余裕があるなら、1人でも多くの敵兵をやっつけろ!そんなものほっておけ!というのが軍指揮者の本音ではないでしょうか?
一方、兵個人の論功行賞を適切に行わないと、「手柄を立てた者」と「手柄を立てない者」が同じ報奨だと、不公平感が生じます。
これは共産主義の平等主義と通じるものがあり、兵士が命を懸けて戦う意欲を削ぐことになりかねません。
こう考えると、戦国時代の兵士のモチベーション維持は、現代社会のビジネスパーソンと通じるものがあります。
現代組織のリーダーは、社員のモチベーションを向上させて高い成果を上げるよう、アメとムチを与えます。
高い成果を出した社員には高給を与える一方、ダメ社員は降格処分やリストラを行う。
かといって、お金だけによるインセンティブの付与は限界があり,出世競争や仕事の意味づけなど、お金以外の要素で社員のやる気を鼓舞します。
戦国時代も、基本的にはアメとムチで兵士のモチベーションを管理をしたのでしょうが、獲得した敵の首の数で厳密な論功行賞を行おうとすると、いろいろな不都合が生じる。
やはり、戦いの意義や将軍の人望などで、戦う意欲を鼓舞したのでしょう。
今も昔も組織のリーダーにとって、部下のモチベーション管理は最重要かつ最難関任務のひとつですね。
達人伝〜趙将・孟粱〜
忘れられていないか心配してましたが、登場しました趙将・孟粱(もうりょう)さん!
髪の毛はだいぶ白くなりましたが、鼻息が荒いのと、上から目線の物言いは相変わらずで安心しました!(笑)
個の武はそこそこ高いものの、いわゆる名将と呼ばれる将軍たちには及ぶべくもない。
そのような現実を内心ではわかりつつ、自分は名将たちと同じレベルであると誇示したがる孟粱さん。
孟粱って残念な人だよね〜と笑っちゃいそうですが、これは大なり小なり、誰しも当てはまるのではないでしょうか?
「自己評価と周囲からの評価を比べると、ほとんどの人は自己評価の方がはるかに高い」という実験結果があります。
人間なんて自分に甘く、他人に厳しいもの。
自己評価と周囲からの評価が一致している人は、かなり悲観的で鬱傾向が見られるそうです。
孟粱さんくらい、自己肯定感が高く勘違いしている方が、人生幸せですよね!
いや、なんだかんだいって、義心を奮い立たせて率先して馳せ参じているし、命じられた仕事はブツクサ文句いいながら一生懸命励むので、エラいぞ孟粱さん!(笑)
<愛すべき孟粱さん〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
達人伝〜義心の連合軍発進!〜
「晋遼将軍率いる国境駐屯軍が全滅した」「あれは殺戮に他ならん」と憤る廉頗。
「どうやら秦は 軍略 軍律 軍容…すべてを変え始めたようだ」
「黒々とした変革…そこに秦王嬴政(えいせい)が浮かぶ」
そうか、あの趣味の悪い首塚は、秦王嬴政の変革のシンボルだったんですね!
<激怒する将軍・廉頗〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
一人の人間の出現により、歴史は良くも悪くも変わる。
「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」という秀逸な映画があります。
ナチスドイツがポーランドに侵攻し、イギリスとフランスはドイツに宣戦布告。
フランスへ侵攻を始めたドイツは、わずか1ヶ月少々で首都パリに無血入城。
当時のイギリスは、「ナチスドイツの電撃作戦、無双すぎるやろ!」「イギリスも攻められたらヤバいって!」「ナチスと仲良くする道を探った方がいいんちゃう!?」という状況。
そこで、「どアホ!」「わいはヒトラーのことよう知っとるけどな、ろくでなしの、人でなしや!」「あんなヤツと仲良うできるわけないやろ!」「目をさまさんかい!」と喝を入れ、決然と立ち上がったのがチャーチル。
(もちろん関西弁ではありませんが)
そして、英国民を鼓舞するラジオ演説で披露された有名なセリフが、「We shall never surrender(私たちは決して屈しない)」です。
ナチスドイツよろしく、国の本性まで一変させ、天下にその野心を伸ばそうとする秦。
それに対し、「ならばこその一戦!」「暗黒の手を払い 魏国を救い 天下を護る!」「決して天下を秦に渡すまじ!」と、趙将・龐煖(ほうけん)を中心に立ち上がる義心の連合軍。
私は「反転攻勢」という言葉が好きで、龐煖の「ならばこその一戦!」のセリフはいいですね!
もし、チャーチルが立ち上がらなければ、ヨーロッパはナチスドイツに席巻され、現代の世界情勢は全く異なるものになっていたことでしょう。
一人の人間の決起により、歴史は変わる。
龐煖を総司令官とする義心の連合軍の決起により、歴史は変わるのでしょうか!?
いや、変わらないけれども変わる史実を、私たちは知っています。
今、立ち上がることに、意味があるのです!
<発進する義心の連合軍〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
達人伝〜破格の秦王〜
怒涛の勢いで押し寄せる義心の連合軍に焦る秦軍総帥・蒙驁(もうごう)。
沈着冷静な蒙驁が切迫した表情で汗を浮かべるところに、事態の切迫さが窺えます。
<怒涛の如く押し寄せる連合軍〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
さらに蒙驁を動揺させるのは、動きの読めない秦王・嬴政(えいせい)の行動。
魏軍を全滅させ首塚を晒したのは、予定のない嬴政の独断だったんですね。
<額に汗を浮かべる秦軍総帥・蒙驁〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
そして、さらにその先を行く秦王・嬴政。
「知恵の数が 数十万足りぬ!」
「どうしても今までの国のかたちから脱しきれぬのか!」
「無能者ばかりか!」
「戦場と帝国の設計!余が数人必要じゃ!」
<怒れる秦王・嬴政〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
曹操は自ら戦場に赴くことをいとわず、というかむしろ好んで戦場へ臨み、屯田兵制や人材登用など国の制度設計にも果敢に取り組む。
これでは、体がいくつあっても足りないですね。
楽天の三木谷浩史会長は、自身の思考回路を「他の人と違う。ADHD(注意欠如・多動性障害)の傾向があるかもしれない」と自己診断しているそうです。
エジソン、アインシュタイン、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブスなど、歴史を変える業績を成し遂げた人物は多かれ少なかれ、空気を読まず、周りを顧みず突き進む「異能」の持ち主という共通点があります。
紀元前の古代中国に誕生した秦王・嬴政は、まさにその「異能」の先駆者であり、圧倒的なエネルギーを持つ破格の人。
歴史上、どのような業績を残したかおおよそは知っていますが、達人伝において秦王・嬴政がどのようなキレキレぶりを見せるのか?
次の「第173話・開戦!!」が楽しみです!
<戦場と帝国の設計を追う秦王・嬴政〜漫画アクション2021/2/2発売号「達人伝」より〜>
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