「達人伝」感想(第169話・大戦への道程)
「達人伝」感想(第169話・大戦への道程)
「蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します!
今回は「第169話・大戦への道程」です!
<漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より>
【目次】
達人伝〜センスとスキル〜
超から魏へ亡命してきた廉頗(れんぱ)が、魏軍に加わることができません。
理由は、亡命が正式に受諾されていないから。
魏将・公孫信いわく、立派な超軍の鎧のまま魏軍に加えることはできない、しかるべき裁可を受けた後、正規軍を率いるのが道理であろうと。
これ、むちゃくちゃ腹が立ちますね!
いや、ふつうの軍人、組織人の対応としては正しい。
法を守り、規律を重んじ、筋を通す。
しかし、物事には「平時の対応」「非常時の対応」がある。
また、「中間管理職の判断」「上級管理職の判断」があります。
秦に20城も奪われて攻め込まれている「非常時」に、数万の軍を預かる「将軍」という高度な地位にある者の判断として、まったくセンスがありません。
<魏将・公孫信〜漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より〜>
ビジネスの世界では、「スキルとセンス」という考え方があります。
英語、プログラミング、運転技術などが「スキル」。
その特徴は、個別の要素に分解できる具体的,論理的なもの。
時間と努力を投資すれば、基本的に誰でも一定のレベルは身につけられる。
一方の「センス」は、営業のセンス、料理のセンス、音楽のセンスなど。
その特徴は、個別の要素に分解しがたい抽象的、感覚的なもの。
どんなに努力しても、身につけられるとは限らない。
たとえば、「営業のセンス」がある人を見習って、見た目を小綺麗にする、トーク力を磨く、アフターフォローを大事にするなど「個別のスキル」を真似しても、同じレベルのセンスには到達できない。
むしろセンスとは、スキル獲得のような一直線の努力とは対極にあり、「仕事ができる人」とは総じてセンスがある人です。
また,組織では、より上位の職にある者ほどセンスが求められます。
極論をいえば、上司はたいしたスキルがなくてもセンスがあればよく(中国史でいえば劉邦や劉備が好例)、部下はたいしたセンスがなくてもスキルがあればよい。
センスがないリーダーを頂く組織は、衰退滅亡に向かってまっしぐらでしょう。
センスとは、物事に対するスタイル、フォームのようなもの。
先天的な要素は大きいものの、日頃から意識することで磨くことはできます。
ただ、特定分野において、圧倒的なセンスに恵まれている人は絶対に存在します。
「自分は営業のセンスがない」「あいつの方が企画のセンスあるな!」と感じた時は、思い切って任せてしまう柔軟さ、しなやかさも大切。
という考えすら、ある意味でセンスなんですよね。
センスとは、「才能」「器」とも類似していますが、「感性」「直観」「美意識」「バランス感覚」の方がよりフィットするように思います。
<猛進する魏将・公孫信〜漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より〜>
魏将・公孫信は、剣技、騎馬術、軍指揮などのスキルは一定程度あるのでしょうが、戦局を大局的、流動的に判断するセンスがない。
さらに、自分の考えに固執し、頑迷に周りの意見を聞き入れない点で、二重にセンスがない!
こうは、なりたくないものです(苦笑)
そして、「センスがない武将」と「センスがある武将」がひと目でわかるよう描きわけるゴンタ先生のセンスはさすが。
公孫信さんは、見た目からしてダメダメなオーラが出てますもんね(笑)
<ダメダメオーラを発する魏将・公孫信〜漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より〜>
達人伝〜麃公の逆鱗〜
公孫信さんとは対照的に、センスの塊といえる秦将・麃公(ひょうこう)。
<センスの塊・麃公〜漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より〜>
ブラブラしていたところ魏軍に遭遇し、練兵ついでに実戦へ突入。
馬を混乱させる庖丁(ほうてい)の攻撃に驚きつつ、とっさに下馬して対応。
猛進してくる公孫信の首を、あっさり獲ってしまいます。
(公孫信さん、つらい引き立て役、お疲れさまでございました…)
勢いそのままに追撃しようとしたところ、荘丹が秘剣・絶界により阻止。
麃公さん、これで完全に頭にきた!
虎の尾を踏み、怒らせてはいけない人を怒らせてしまった!!
麃公さんのように気まぐれで天才肌の人材は、そのプライドを尊重し、うまくおだてて仕事をしてもらうに限ります。
その意味で、王翦(おうせん)は麃公さんの使い方がじつにうまく、できる奴です(笑)
<自由奔放な秦将・麃公〜漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より〜>
一方の荘丹は、麃公さんをコケにするつもりなどなく、ただ追撃を食い止めたかった。
生命を奪うつもりはなく、攻撃を無力化することだけが目的だった。
しかし結果的に、それが麃公の逆鱗に触れてしまった。
このような場合、どうしたらいいのでしょう?
同僚などであれば、「そんなつもりはなかった!」「馬鹿にするつもりなどなかった!」と丁寧に詫び、相手の怒りが解けるのを粘り強く待つこともできるでしょう。
しかし、相手が敵の場合、おそらくどうしようもない。
理屈より感情。
感情モードに入ると、もはや理屈は通用せず、開戦は不可避。
今回のタイトルは「大戦への道程」であり、麃公の私情が「大戦への導火線」となりそうです!
<私情をむき出しにする秦将・麃公〜漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より〜>
達人伝〜秘剣・絶界〜
荘丹の秘剣・絶界は、じつに不思議な技です。
達人伝とほぼ同時代を描くライバル漫画(?)キングダムでは、ありえない描写でしょう。
非現実的とも思える妙技ですが、私なりにあえて分析するなら、キーワードはシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)。
たとえば、相撲の立会いでは「はっけよいのこった!」の掛け声に、双方が呼吸を合わせる。
たとえば、武道では「後の先」「先の先」という言葉があり、相手に合わせた対応を取る。
たとえば、赤ん坊は見よう見まねで言葉や動きをおぼえ、私たちも近しい人と話し方やしぐさが似ることがある。
脳科学的にいうと、人間にはミラーニューロンという神経細胞があり、目で見た人の動きを勝手にマネしてしまうんですね。
秘剣絶界の描写を見ると、荘丹はふ〜っと大呼吸することで、麃公の無意識へ入り込み、シンクロ(同調)する。
そして,右手を大きく天へ振り上げ、麃公もその動きを無意識に真似して、剣を放り投げてしまう。
「生死を賭けた真剣勝負の最中に、そんなことできるかい!」とも思います(笑)
が,武術の達人の中には、こんな人間離れしたことができる人がいるのかもしれない!いや、いてほしい!とすら思います。
<荘丹の秘剣・絶界〜漫画アクション2020/12/1発売号「達人伝」より〜>
達人伝〜まとめ〜
さあ、麃公の私情に任せた追撃を機に、秦と魏による大戦の火蓋が切られそうです。
秦軍は、総帥・蒙驁(もうごう)、麃公、王翦と役者が揃っていますが、魏軍はどうでしょう?
廉頗を戦力として受け入れるかは、微妙。
函谷関攻めの時のように、趙の龐煖(ほうけん)や李牧,楚の春申君や項燕など、連合軍として魏軍に加わってくれるのでしょうか?
次回,「第170話・魏軍最後尾」に乞うご期待です!
前回のあらすじと感想はこちら!
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