「達人伝」感想(第184話・総帥の綻)

「達人伝」感想(第184話・総帥の綻)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回の「第184話・総帥の綻(ほころび)」は,ぶち上がる展開です! 

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<秦軍の立て直しを図る麃公〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜秦の溢れ者たち〜 

崩れかけた秦前軍の立て直しを図る秦将・麃公(ひょうこう)。

前右軍は王翦(おうせん),前左軍は桓齮(かんき)と楊端和(ようたんわ),そして前軍中央を麃公が率います。

 

「端和よ〜ぶち上がるよな〜」と話しかける桓齮。

「溢れもんと蔑まれてきた俺たちが 用無しの函谷関で吹き溜まってた俺たちが 今揃って秦の前軍を率いてる!」「こりゃ 俺たち二人の将軍職も夢じゃないぜ!」と感慨が止まりません。

 

そう,素行に問題のあった麃公,王翦,桓齮,楊端和は,何十年も敵が攻めてきたことのない函谷関に配属された閑職,いわゆる窓際族でした。

手柄を上げる機会すら与えられず,一生このまま。

それが,あれよあれよという間に引き立てられ,今では最前線で共に戦う心強い仲間。

 

三国志曹操は,「治世の能臣,乱世の奸雄」と評されました。

麃公たちも,秦が他国に攻め込まれる非常時にこそ,活躍するタイプだったのかもしれません。

 

さあ,このまま函谷関へ撤退しながら攻撃の機を捉え,連合軍に一矢報いるのでしょうか?

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<秦将・麃公〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜愚息・蒙武〜

秦軍後軍を整えながら撤退する秦軍総帥・蒙驁(もうごう)。

 

殿(しんがり)まで下がってきたわが子・蒙武に,「この戦はこの子の手に余る!」との思いはおくびにも出さず,ただちに都へ戻り,武関の防備を進言するよう命じます。

蒙武は,「え!?…副官である私が戦場を離れ伝令とは…」と抵抗。

 

これは,前回,「軍を放り出して援軍の要請など行っていたのか!この馬鹿息子が!」と麃公に怒られたのが効いているかもしれません(笑)

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しかし,蒙驁は「伝令ではない!」「戦況を知るおまえが主となり 都で対応策を講じるのだ!」と一喝。

 

元外交官の作家・佐藤優氏は,「能力なし×意欲ありの人材が,組織にとって一番タチが悪い」と言います。

 

「能力も意欲もある人材」は最高,「能力も意欲もない人材」は問題外として,「能力あり,意欲なしの人材」より「能力なし,意欲ありの人材」の方がひどいというのは,ちょっと意外ではないでしょうか?

 

私も,「能力なし,意欲ありの人材」は,時間をかけて経験を積めば優秀な人材に育つのではないかと思いますが,外交や戦場というひとつの失敗が組織の致命傷になりかねない緊張感をはらんだ場面は例外。

やはり,「能力なし,意欲ありの人材」は,下手な功名心にはやったりして判断を誤るリスクが高く,組織には極めて危い存在なのかもしれません。

 

「能力なし,意欲ありの人材」,残念ながらそれがまさに蒙武。

 

蒙驁おとうちゃんは,力不足の蒙武は危なっかしくてこの戦場に置いておけない,自分は親バカだから蒙武をかばって戦局を誤ることになりかねないので,早々に離脱させようとしたのです。

達人伝〜総帥の綻   

が,しかし!

楚将・項燕(こうえん)が,猛然と蒙驁に襲いかかります。

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<蒙驁に襲いかかる項燕〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

つい先ほど蒙驁を「総帥」と呼んでいたのに,思わず「父上ーー」と叫ぶ蒙武。

とっさの場面で争えないのが親子の情。

 

項燕の一撃をかわしながら,すかさず反撃する蒙驁。

蒙武も項燕に斬りかかるが,逆にひたいを斬りあげられる。

危ない!と狼狽する蒙驁。

その蒙驁のわずかな隙を,綻を衝き,渾身の一撃を降りおろす項燕。

そして,無念!と観念した表情の蒙驁。

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<項燕vs蒙驁〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

が,すんでのところで秦将・黄壁(こうへき)が割って入り,危機を逃れる蒙驁。

同時に,黄壁への一撃で剣が折れ,蒙驁と黄壁の反撃により項燕は後退を余儀なくされます。

達人伝〜達人の攻防〜   

いや〜,しびれる展開で,絵から読み取れる攻防の駆け引きもじつに味わい深い。

 

まず,「蒙驁の後ろから襲う項燕」「蒙驁」「蒙武へ注意喚起する蒙武」の3人のタテ構図が,めちゃくちゃバシッと決まっています(↑上の絵)。

個人的に,こういう一瞬を切り取った写真のような,戦場全体の音が消え去った中で「父上ーー」という声だけ響いてくるようなシーンはツボです。

 

からの,剣を斬りおろす項燕と斬りあげる蒙驁,タテ構図の2人のコントラスト。

 

さらに次ページを見ると,蒙驁は右手で馬の顔をグイッと押し,その反作用で馬のお尻を項燕の馬にぶつけることで,項燕の斬撃を逸らしています。

現代でいえば,車でスーパードリフトをかましながらの攻撃といったところで,おそるべき蒙驁のドラテク

 

しかし,項燕も負けていない。

必死に斬りかかる蒙武には視線もくれず,むしろ「綻(ほころび)!」と捉えてキタキターッとばかりに,蒙武の動きを止める程度に浅く斬りあげます。

 

そう,項燕の狙いはあくまで蒙驁。

蒙武の救出に入ることを見越して蒙驁からは一瞬も視線を外さず,蒙武に対しては浅く斬りあげ,馬の頭をかちあげて蒙驁の斬撃を逸らし,しかる後に上方に溜まったパワーを一気に解き放つように渾身の一撃を振りおろす。

 

もう,これ以上ないというくらいの完璧な流れ。

が,予想外の黄壁の出現によって妨げられるという。

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<項燕vs蒙驁・黄壁〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

見開きページのこの絵(上の絵↑),後ろ姿だと誰だかわからないところ,左上に黄壁の顔を載せることで明示し,さらに蒙驁は早くも項燕への斬撃を始動させています。

ひたいを斬りあげられ,白目状態でのけぞったままの蒙武くんとは,えらいちがい(笑)

 

なお,ここで解説した絵を全部載せたいのは山々ですが,ちょっと著作権上まずかろうと思われるので,控えさせていただく次第です。

コミック31巻が出た際はさらっと読み流さず,じっくり味わっていただくとより楽しめるのかな,と思います。

そして,「こんな仕掛けもある!」「これはこういうことでは?」など共有いただけたら幸いです!

達人伝〜項燕の剣〜 

余談ですが,しばしば折れる項燕の剣について。

 

まったく次元は異なりますが,中学の部活でバドミントンを始めた頃,最初の半年間ほどは毎月,へたすると毎週のようにガット(ストリングス)が切れました。

力任せに打つだけのへたくそでスイートスポットに当たらず,はしっこのヘンなところばかりよく切れたのです(笑)

 

少し上達してからは,張り替えの頻度は2,3ヶ月に1回程度に減りましたが,テンション(ガットの張りの強さ)が高めだと切れやすく,低めだと切れにくいことは確か。

トップアスリートに憧れ,バリバリ高いテンションで張った時期もありますが,打球の衝撃が半端なく,肩が痛くなったのでほどなくやめました(笑)

 

剣に関しては,鉄の種類,配合,鍛え方によって柔らかい剣と硬い剣があり,中心部分は柔らかい鉄,表面部分は硬い鉄を使うと折れにくい剣ができるそうですが,基本的に硬い剣じゃないと戦場では使い物にならないでしょう。

 

項燕の場合,麃公が「膂力の化け物」と評したこともあり,剛腕の武将にとって剣は消耗品だったのだろうと想像します。

達人伝〜秦都攻撃宣言〜   

後退して劉邦率いる本隊と合流する項燕。

蒙驁は黄壁に礼を言い,まだ茫然自失状態の蒙武に都へ向かうよう命じます。

 

「ぐう〜もうちょいだったのに〜」と悔しがる項燕。

「いつかぶっ倒しゃいいんだ」という劉邦に,連合軍総帥・龐煖(ほうけん)は「いつかではだめだ!この戦で倒さねばならない」と言います。

 

続けて,「これより秦都攻撃態勢に入る!」「第一攻撃目標は 函谷関以下の五関攻略!」と宣言。

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<秦都攻撃を宣言する龐煖漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

そもそもこの戦は,「魏に侵攻した秦」vs「秦を撃退し,魏を救うため結成された連合軍」との戦と思っていましたが,ところがどっこい。

龐煖は秦都へ攻め入ることを目指し,そのために五関攻略という壮大な戦略を携えてこの戦に臨んでいたことが判明しました。

 

激しく動揺する蒙驁。

さらに龐煖は,「長平45万の無念と 中原の憤怒を秦の都にたたきつけるべし!」と檄を飛ばします。

 

長平45万の無念。

そう,秦将・白起(はくき)は趙を攻めた際,投降してきた45万人もの兵を生き埋めにして殺したのでした。

 

45万人といえば,100万人規模の政令指定都市の約半数。

趙の正確な人口や総兵力はわかりませんが,一説によれば趙は国の9割の兵力を失ったとのこと。

 

45万人の兵士には,それぞれ親,妻,恋人,子どもがいた。

45万人の子ども,夫,恋人,父を亡くした家族の悲しみ,怒り,恨みは,筆舌に尽くし難いものがあったことでしょう。

 

長平の無念と,秦に抑圧・侵攻されてきた憤怒を,たたきつける機会がついに来たのです!

達人伝〜微かな違和感  

連合軍が気勢を上げる中で,ひとり違和感を覚える劉邦

この違和感の正体はなんでしょう?

 

思い当たる節としては,盗跖ねえさんが秦の異民族軍にやられたこと,あるいは,いささか龐煖が急いでいる印象を受けることくらいでしょうか?

 

さあ,この伏線がどのように効いてくるのでしょう?

次回,第185話が楽しみです!

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<微かな違和感を覚える劉邦漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

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