「達人伝」感想(第175話・秦の様態)

「達人伝」感想(第175話・秦の様態)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します!

今回は,「第175話・秦の様態」です! 

【目次】

達人伝〜思惑、三様〜 

今回のサブタイトルは「思惑、三様。」

 

あやうくさらっと読み飛ばすところでしたが、太后・朱姫、秦王・贏政、宰相・呂不韋の3人は、じつは血の繋がった親子であり家族。

 

しかし、中央の秦王は、朱姫と呂不韋の関係を断裂させる構図となっており、自身の出自を否定したい秦王の思いを象徴しています。

 

秦王は、天下統一という中華史上初の覇業へ爆進。

呂不韋は、安定的かつ堅実な国政運営を志向。

朱姫は、呂不韋への愛の喪失と復讐の渦中。

 

まさに三者三様の思惑がすれ違い、やがて交差していきます。

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<漫画アクション2021/4/6発売号「達人伝」より>

達人伝〜太后の懐妊 

太后が懐妊しました。

太后の夫である前秦王は既に亡くなっているため、本来、懐妊はありえない。

 

懐妊の相手は、呂不韋が自身の身代わりとして、宦官の形で後宮に送り込んだ嫪毐(ろうあい)。

 

嫪毐については、巨根ひとつで歴史に名を残した凄い人物として、以前の記事で紹介しました。

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しかし、今回感じたのは、朱姫の念の凄さ。

 

「生き存らえたければ あなたはもう 成り上がるしかないの」

太后である 私の力のすべてを使って」

 

朱姫にすれば、相手は嫪毐でなくても、誰でもよかったのではないでしょうか?

すべては、心から愛したのに、自分を何度も切り捨てた呂不韋への復讐。

 

女性の恨みは、本当に怖い。

 

国史上に登場する怖い女性といえば、劉邦の妻・呂太后が思い浮かびます。

 

太后は、政敵の女性の両手両足を切り落とし、目玉をくり抜き、耳と声を薬でつぶし、便所に置いて「人豚」と呼び、さらし者にして笑い転げたと史実にあります。

 

人間そんな状態ではわずかしか生きられないはずですが、簡単に死なせないよう、恥辱を長引かせるよう、止血処置や飲食を取らせて、生きながらえさせたとのこと。

 

恐ろしい……

 

私はこの話を中学生の時に知り、「女性を怒らせたり恨まれたりすると、めちゃくちゃ怖い!」「男は、こんなことできないだろう!」と、かるいトラウマになりました(笑)

 

今まで呂不韋に利用されるばかりだった朱姫が、復讐として政事に関わることに。

底知れぬ怨念と虚無を秘めた眼が怖いですね……

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<太后・朱姫〜漫画アクション2021/4/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜黄壁の抜擢〜

前回、初登場して何者?と疑問だった黄壁の出自が、明らかになりました。

なるほど、呂不韋による抜擢でしたか!

抜擢の理由は、文武双方の力量に加え、自分以外の者を信じていない点。

 

自分以外の者を信じるか、信じないか?

 

呂不韋は、「自分以外の者を信じていない」「思えばそれは この秦に移ってきた者 すべてに共通する性質かもしれない」といいます。

 

しかし、自分以外の者を信じていないという呂不韋でさえ、仕事や生活をするためには、まったく他者を信じずに生きることはできません。

人間が社会生活、共同生活を営むためには、一定程度の他者への信頼が前提となるからです。

 

したがって、ここで呂不韋がいっているのは、「根本の根本、根っこの根っこのところで、自分以外の者を信じるか、信じないか?」ということでしょう。

達人伝〜信じるとは?

そもそも、「信じる」とは何か?

 

私が思うに、信じるとは、究極的に自分の命を他者へ預けること。

弱い自分、ありのままの自分をさらけ出し、自分の命を任せられると思うこと。

 

よく考えると、信じるとは、むちゃくちゃおっかないことです。

 

たとえば、黄巾の乱太平道や、現代のオウム真理教

彼ら彼女らは狂信的な宗教を信じ、その組織と同化し、破壊的,破滅的な行動に走りました。

 

たとえば、「キツネ憑き」という現象。

あれは、キツネを信じて信じて、凄まじいエネルギーをキツネに捧げることでシンクロして自身がキツネ化するのだ、と聞いたことがあります。

 

何を信じるのか?

自分しか信じないのか、他者を信じるのか?

 

もちろん、他者を信じるといっても、どれほど信じるに足りる者か、どれほどその他者を信じるかは、様々なレベルがあります。

 

古代中国に存在した「侠」という概念は、ひとたび他者を信じれば、自分の命を失うことも厭わないというもの。

 

その意味で、丹(あかし)の三侠こそ、「人を信じる達人」なのかもしれません。

 

しかし、この呂不韋の独白シーン、セリフと「義」「侠」のイメージが絵に昇華されていて素晴らしく大好きです。

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<秦の宰相・呂不韋漫画アクション2021/4/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜ギリシャ人と兵馬俑

異民族で構成する王直属の軍を構成するため、人狩りを行う秦王。

 

捕らえた移民族の中にギリシャ人がおり、秦王は彼のつけているネックレスの彫像に目をつけ、「格好の獲物が狩れたぞ」「兵馬俑にうってつけじゃ」といいます。

 

これ、よくわからなかったので調べたところ、なんと秦の始皇帝兵馬俑には、ギリシャ文化の影響が見られるとのこと。

 

どういうことかというと,古代中国には等身大の彫像を作る風習はなかったのに、兵馬俑には膨大な数の兵士の等身大の彫像が残されている。

 

それははなぜかというと、ギリシャ人が彫刻の作成指導をしたからではないか、という説があるのです!

 

中央アジアまで遠征し、ギリシャ彫刻などの文化を伝播させたアレクサンドロス大王が没したのが、紀元前323年。

 

始皇帝はその約60年後に誕生しており、等身大の彫刻を彫るギリシャ文化の影響を受けても、不思議ではありません。

 

じつにおもしろい!

 

そして、このような自然なストーリー仕立てで、始皇帝ギリシャ人との出会いを物語に落とし込むゴンタ先生の手腕はさすがです。

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<人狩りを行う秦王〜漫画アクション2021/4/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜項燕危機〜

秦将・麃公(ひょうこう)の中央突破により、陣を崩された項燕。

 

項燕は、「函谷関以来 あいつとは数度当たったが それぞれがまるで別人の戦いぶり」と迷いがあります。

 

引き出しが多く、変幻自在の麃公さん,今回はまんまと項燕の気勢をそらし、後軍と合流して崩れた連合軍を追い詰めにかかる算段でした!

 

項燕は、個の武は確実に上がりましたが、軍対軍の戦術や読み合いにおいては、麃公に及ばないようです。

 

「ほざきおって〜〜」「だがしかし これはいったいどうしたものか」という項燕。

項燕と李牧軍、劣勢確定でしょうか!?

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<項燕をいなす秦将・麃公〜漫画アクション2021/4/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜盤石の蒙驁〜

膠着を破って秦中央軍を崩すため、劉邦と盗跖の賊党軍を正面からぶつけてきた連合軍。

 

しかし秦軍総帥・蒙驁(もうごう)は、「奇抜な軍容と戦いぶりに惑わされてはならない!」「個々の武を見極め 丁寧に潰していきなさい!」と指示。

 

この指示、冷静かつ的確すぎます!

 

次元は異なりますが、自分の経験(バドミントン歴30年)を振り返っても、あきらかに実力が格上の相手と戦うときは、序盤にトリッキーな戦法で相手の撹乱を狙います。

 

しかし、相手がひとつひとつ丁寧に対応し、さっぱり混乱してくれないと、時間の経過とともに敗色濃厚となります。

 

反対に、格下や実力不明な相手と対戦するときは、相手が奇抜な方法を仕掛けてきても、ひとつひとつ落ち着いて確実にさばき、その狙いやクセを見極めれば、自ずと勝機は見えてきます。

 

見えないと、負けます(笑)

達人伝〜劉邦の気炎〜

プロ野球のように、シーズン中100試合以上戦うような場合、冷静に落ち着いて戦う限り、実力,総合力の優れたチームが勝つ確率が圧倒的に高い。

 

反対に、オリンピックなどのような一発勝負の場合、どちらに転ぶかわからないことはしばしばです。

 

ましてや、ルールやフィールドが厳密に決められたゲームやスポーツの世界とは異なり、不確実性、不安定性の極致といえる戦争においては、何が起きても不思議ではありません。

 

たとえば、織田信長徳川家康の連合軍と、武田勝頼軍が対決した「長篠の戦い」。

 

戦国最強の武田騎馬隊を、鉄砲の三段撃ちという新テクノロジーにより信長があっさり撃破した通説は見直されているようですが、それはそれとして、「雨」が勝敗を決した説があります。

 

じつは、長篠の戦いは、梅雨どきの6月下旬。

開戦直前まで、連日雨が降っていました。

 

武田軍は、織田・徳川連合軍が膨大な鉄砲を持っていることを把握しており、しかし雨により火縄銃が使い物にならないと読んでいた。

 

天候に詳しい地元の農民に確認し、次の日も雨が降る予想を踏まえ、武田軍は翌朝からの総攻撃を決定。

 

しかし、予想に反して雨はあがり、連合軍の3,000丁の鉄砲が猛然と火を噴いた!

 

もし、予想どおり、せめて半日でも雨が降り続いていれば?

歴史は変わっていたかもしれません。

戦場は、誠に御しがたい不確実性、不安定性に満ちたものです。

 

さあ、我らの劉邦くん、磐石の安定感を誇る蒙驁軍を崩すことができるのでしょうか?

次回に乞うご期待です!!

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<気炎を吐く劉邦漫画アクション2021/4/6発売号「達人伝」より〜>

 

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