「達人伝」感想(第166話・断層の間に)

「達人伝」感想(第166話・断層の間に)

蒼天航路」の作者・王欣太(キングゴンタ)先生が連載中の「達人伝」の感想を紹介します!

今回は「第166話・断層の間に」です!

 

【目次】

「達人伝」感想(第166話・断層の間に)〜神将・王齮〜

最初読んだとき,「なぜ,ここで王齮(おうき)の登場?」と,少々違和感がありました。

 

「キングダム」の王齮(=王騎)は,レジェンド的,圧倒的な存在ですが,「達人伝」では功名心にはやる次世代将軍の一人で,信陵君との一騎討ちでは一蹴され,深傷を負っています。

 

そんな王齮を,なぜここで登場させるのか?

必然性がピンとこなかったのです。

 

しかし,何回か読んでふと思い至りました。

 

ゴンタ先生は,「天下統一」というスローガンが秦の家臣へ与えた影響を描きたかったのではないか,と。

 

 

たとえば,ある企業の社長が「世界一の会社を目指すぞ!」と宣言したら,社員はどう反応するでしょうか?


「世界一!?凄いじゃん!よし,やるぞ!」と燃え立つのではないでしょうか?

え,そんなのムリ……と引く社員もいるでしょうが(笑)

 

それと同じように,秦王・政の天下統一宣言により,秦の家臣たちの内面に起きた変化,意識の変化を描きたかったのではないかと。

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<天下統一を宣言する秦将・王齮(おうき)〜漫画アクション2020/10/6発売号「達人伝」より〜>

 

中華史上,天下統一はそれまで1度もなく,空前絶後の大宣言。

間違いなく歴史に残る偉業であり,貢献した人物は後世までその名が残ることでしょう。

 

秦の制圧地における趙兵の反乱という事件を通して,秦サイドにおける天下統一宣言の影響,つまり,王齮をはじめとする将兵の気分の高揚が理解できます!

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<暴れ回る秦将・王齮(おうき)〜漫画アクション2020/10/6発売号「達人伝」より〜>

 

 しかし,王齮さん、全身を炎に包まれながら,かまわず敵に突っ込んでいくなんて,かなりクレイジーですね〜

 

まず消火が優先でしょう!(笑)

 

王齮さんは,以前,信陵君と戦ったときに斬られた古傷が開いて出血しており,そのとき危ないところを助けてくれたのは蒙驁さんでした。

 

今回も,お父さんのような蒙驁さんが登場し,マントで包んで消火救助してくれなければ,焼死していたでしょう。

 

さしずめ,王齮は「天下統一」という社長の掲げる目標実現のため寝食を忘れて突き進むモーレツ社員。

 

蒙驁は,「頭を冷やせ!」とたしなめる管理職といった感じでしょうか?(笑)

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<王齮を抱きかかえる秦将・蒙驁(もうごう)〜漫画アクション2020/10/6発売号「達人伝」より〜>

 

そして,驚愕の事実が判明しました。

正史「史記」において,王齕(おうこつ)と王齮(おうき)は判別できないと。

 

そうなんですか?そうだったんですか!

 

「キングダム」の王齮ファンが聞いたら,「えっ!?」「王齕ってだれ?」と,ひっくり返るのではないでしょうか?(笑)

 

王齕と王齮は,「達人伝」ではおじ,おいの関係とされています。 

たしかに,「王齕」と「王齮」は漢字が似通っていますね。

 

司馬遷史記を描いた時代から見れば,王齕,王齮が活躍した時代はおよそ150年ほど前。

 

それほど昔ではないようにも思えますが,2020年の150年前といえば1870年。

明治初期といえば,けっこう昔の時代であることは感覚的に理解できます。

 

また,司馬遷の仕える漢帝国から見れば,秦は打倒した王朝=悪役であり,しかも秦はわずか15年ほどで滅亡したことから,記録が散逸して十分残っていなかったのかもしれません。

 

炎に包まれながら,「この王齮の名は 歴史に刻まれるのだ」と敵に突撃する王齮さん,後世でおじの王齕さんとごっちゃにされていたと知ったら,さぞ悲しむでしょうね(笑)

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<炎に包まれながら突進する秦将・王齮〜漫画アクション2020/10/6発売号「達人伝」より〜>

「達人伝」感想(第166話・断層の間に)〜流亡の講談師〜

前半は,天下統一宣言の「秦の内部」へ与える影響でしたが,後半は「秦の外部」へ与える影響です。

 

現代でも,アメリカや中国がその強力な軍事力を背景として「世界を統一する!」とか言い出したら,「は?」「なにいってんの?」と周辺諸国はビビりますよね(笑)

 

しかも,その世界統一宣言が,わずか13,14歳で就任したばかりの少年大統領によって発せられたとしたら,「正気か!?」「誰のさしがねだ?」と諸国は混乱の極みでしょう。 

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<荘丹と講談師のおっちゃん〜漫画アクション2020/10/6発売号「達人伝」より〜>

 

時代の断層。

ほとんどの場合,1人の人間が歴史に及ぼす影響など,たかが知れています。

 

しかし,時と場合により,秦王・嬴政(えいせい)やトランプ大統領が就任して世界の潮流が変わったように,「時代の断層」が生じることがあります。

 

そして,時代の断層とは,地殻変動のような瞬間的,爆発的なエネルギーで形成され,ひとたび動き出すと,当面の間は不可逆的,非可逆的なものと思われます。

 

つまり,潜在的に多くの人が「おかしい!」と感じても,一定程度までその勢いを止めることはできず,その後,揺り戻しがあったとしても,前と同じ状態には戻れません。

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<時代の断層に愕然とする荘丹〜漫画アクション2020/10/6発売号「達人伝」より〜>

 

この時代は,現代のようにスマホもインターネットもなく,新聞,テレビ,ラジオなどのマスメディアもなく,旅人や講談師が口コミで庶民に情報を流通させていました。

 

つまり,定住地を持たず,さすらい歩く流亡(=流氓=りゅうぼう)が,民衆世論を形成したといえます。

 

そして,この民衆世論の高まりこそが,易姓革命が中国で是とされてきたように,王朝交代のための最大の大義名分となったのではないでしょうか?

 

じつは,今回の第166話の後半に関しても,はじめは「講談師の水玉のおっちゃん,なんでここで登場するのかな?」と,いまひとつ腑に落ちませんでした。

 

しかし,「達人伝」の主人公は,歴史に名の残らない「流亡」。

 

「紳士」(権力を持つ上流社会の人)ではなく,「流亡」こそ歴史を揺り動かしてきたというのが「達人伝」を貫く思想。

 

その意味で,講談師のおっちゃんのような「流亡」の存在は不可欠なんですね!

 

 やはり,「達人伝」は,大人の知性と感性を刺激する作品。

 

「ドキドキ,ワクワクする戦闘シーンが少ないなあ」など,あさはかな読み方をしてはいけません!(笑)

「達人伝」感想(第166話・断層の間に)〜まとめ〜

さあ,秦の謀略の結果によるものか,趙の名将・廉頗(れんぱ)が魏国へ向かうところで第166話は終了します。

 

趙は,秦の攻撃を受けて都・邯鄲が陥落しそうなとき,魏の信陵君が救援に駆けつけてくれたおかげで窮地を脱した経緯があります。

 

そんな大恩ある魏を侵攻せよとは,趙王はいったい何を考えているのでしょうか?

はたして,廉頗は王命に従うのでしょうか?

 

次回に乞うご期待です!

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<趙の名将・廉頗(れんぱ)〜漫画アクション2020/10/6発売号「達人伝」より〜>

 

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