達人伝(王欣太)第161話「気炎,怒涛のごとく」感想
【目次】
- 達人伝あらすじ
- 達人伝とキングダム
- 達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜秦軍総帥・蒙驁の魅力〜
- 達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜愛すべき麃公〜
- 達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜信陵君の気炎〜
- 達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜まとめ〜
達人伝あらすじ
中国の春秋戦国時代。
天下統一を目指す秦に故国を滅ぼされ,親友を殺された荘丹(そうたん)は,秦の野望を砕くことを決意。
志をともにする仲間2人と出会った荘丹は,戦国四君(斉の孟嘗君,趙の平原君,魏の信陵君,楚の春申君)の助けを得ながら,秦に対抗する力を蓄えていく。
2代続く王の死に揺れる秦に対し,魏の信陵君を盟主に,五国連合軍が結成。
荘丹たちは,少年・邦(バン)=のちの劉邦とともに決戦の地へ繰り出す!
ひとことでまとめるなら
冷徹で安定した体制の樹立を図る「紳士」(=公権力を持つ人々)と
その阻止を図る「流氓」(りゅうぼう=さすらい歩く人々)
の戦いの物語。
作者は,従来の三国志観にパラダイムシフトを起こした伝説的名作「蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生。
蒼天航路の魅力について100倍くらい書きたいことはありますが(笑),胃もたれしない程度にまとめた感想がこちら。
王欣太先生とは,20年くらいずっと会いたい!と願っており,2019年に実現。
気難しくて,怖そうな先生かと勝手に想像していたら,気さくでサービス精神あふれる,気のいいおっちゃんでした(笑)
でもやっぱり超一流のクリエイター!と尊敬できる素晴らしい方。
ちなみに,「王欣太」は中国人ぽい名前ですが,「蒼天航路」に取り組んだとき中国人になりきって描くぞ!と勢いでつけたペンネームだそうで,ばりばり,コテコテの関西人です(笑)
達人伝とキングダム
「達人伝」は,「キングダム」(原泰久先生・集英社)とほぼ同じ時代。
(正確にはキングダムの数十年前)
キングダムは,主人公の信が秦王・政とともに天下統一を目指し,成長・活躍していく王道の物語で,アニメ版・実写版が映画化されている人気作品です。
キングダムは,最新の連載誌までひととおり読んでおり,物語の展開も迫力ある画力も素晴らしい作品と思いますが,個人的には「蒼天航路」以来,王欣太先生の大ファン。
キングダムとほぼ同じ春秋戦国時代を描きながら
・史実に残らない流氓(りゅうぼう)が歴史を動かす斬新な視点
・権力や支配体制にあらがい,自由を追求して連帯する精神
・史実を押さえつつ,予想を遥かに超える解釈と描写
・水墨画調はじめ,自由闊達でのびやかな画風
・命を超えて受け継がれる熱い「侠」の魂
などの点において
「達人伝」は「知性と感性を圧倒的に刺激する大人向けの作品」です。
もちろん,人それぞれ好みの違いはあり,誤解のないよう補足しておくと,キングダムが子ども向けというわけでは,決してありません(笑)
ある意味で,描き尽くされた「王道路線の歴史もの」のレッドオーシャンで,おもしろく描いて多くの人に受け入れられることは,難事中の難事であり,正義であり,素晴らしい。
私自身,純粋に楽しむエンターテインメント作品という意味で,キングダムはめちゃくちゃおもしろいと思います。
とはいえ,総合的にはキングダムより断然「達人伝」推しなんですけどね(笑)
キングダムを読んだり,観たりしたことがある方は,「達人伝」と「キングダム」の共通点や違いを比較する観点から楽しむのも,おもしろいと思います!
【達人伝公式サイト】
【無料で読める「達人伝」ダイジェスト版】
https://www.futabasha.co.jp/tachiyomi/reader.html?pc=1&fd=tatsujinden_digestLR
【前回の感想はこちら】
達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜秦軍総帥・蒙驁の魅力〜
秦軍総帥・蒙驁(もうごう)の魅力が全開です!
信陵君(しんりょうくん)のただならぬ気配を早々に察知する直観。
閉門の機を冷静に見極める論理。
今後の戦の帰趨を見据えた大局観。
王翦(おうせん)が,麃公(ひょうこう)や桓齮(かんき)の帰還を待たず閉門を指示するのを,「まだならぬ」と止めたシーンに蒙驁の本質が現れています。
なぜ,蒙驁は閉門を止めたのか?
敵兵の侵入を確実に阻止するには,王翦の指示したタイミングが合理的で妥当。
しかし,蒙驁は1人でも多くの将兵の命を救いたかったのではないか?
と同時に戦闘のその先を見据え,「秦軍は将兵を見捨てることはない」というメッセージを発したかったのではないか?
そして,蒙驁の本性は「武」なんですね。
わが子を「蒙武」と名づけ,信陵君をただひとり待ち構える自信満々の不敵な笑み。
まぎれもなく,武に生きて武に死すことを本望とする「武人の顔」です。
この絵の圧倒的な迫力,剣の交差する金属音が聞こえてきそうでヤバいですね!
<信陵君を待ち構える蒙驁〜漫画アクション2020/7/7号「達人伝」より〜>
つき従う部下として,蒙驁ほど頼もしく信頼できる上司はいない。
つき従える上司として,蒙驁ほど安心して任せられる部下はいない。
まさに理想の上司像であり,「よろしい」「ご苦労」「来なさい」など丁寧で自信に満ちあふれた口調からは「蒙驁先生!」「蒙驁部長!」と呼びたくなります(笑)
ではここで,蒙驁先生からの問題です。
Q 蒙驁先生が,帰還した麃公から「ご苦労」と剣を奪い取ったのはなぜでしょうか?
A1 二刀流で信陵君を迎え撃つため
A2 兵士から奪い取ったら,兵士が丸腰になり危険なため
A3 二刀流の麃公なら1本取っても問題ないため
A4 兵卒より隊長の麃公の方が良い剣を持っているため
A5 お疲れさま,ここからは私の仕事だよと伝えるため
A6 お洒落な麃公の剣が欲しかったため
A6以外,すべて正解です(笑)
<麃公と蒙驁〜漫画アクション2020/7/7号「達人伝」より〜>
また,最終ページで蒙驁が「閉門」と叫ぶ場面ですが,かつてこれほど豪壮な閉門シーンがあったでしょうか?
防御する側は,攻撃側を上回る気合いと迫力が必要。
さもなければ,怒涛の勢いに一瞬で呑み込まれかねない。
ビジネスやスポーツはじめ,勝負事の世界における鉄則ですね。
<閉門を指示する蒙驁〜漫画アクション2020/7/7号「達人伝」より〜>
達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜愛すべき麃公〜
函谷関警固隊長の麃公が,じつにいい味を出しています。
「うおお 熱つっ…」「やばいぞ こりゃあ〜〜」と,危機察知能力は抜群。
「しっかしな〜〜少しぐらい狙う隙があるんじゃないのか〜?」手柄を狙う野心も十分。
さらに,自在に暴れ回りながら,「桓齮!端和!撤収だ!退けい!」と敏感な判断能力。
「退けい桓齮 今すぐだ!!」と手荒く背中を蹴って救出し,最後尾で兵卒を守る責任感。
麃公が腕をぐるんぐるんさせ,汗をかきかき,「退けい 退けい 皆退け〜い」「急がんと門を閉められてしまうぞーっ」「関門に駆け込め〜いっ」」などのセリフと表情は,チャーミングですらあります(笑)
<退却を指示する麃公〜漫画アクション2020/7/7号「達人伝」より〜>
冷静な合理主義者の王翦は,ふだんの演習で7,8割方の味方が関門に駆け込んだら,残りの2,3割は,たとえ隊長であろうと平気で閉め出していたのでしょう。
実際,王翦は揚端和が帰還したタイミングで閉門を指示しており,蒙驁が「まだならぬ」と止めなければ,麃公も桓齮も閉め出されるところでした。
<閉門を指示する王翦とそれを制止する蒙驁〜漫画アクション2020/7/7号「達人伝」より〜>
今回は,蒙驁や信陵君の引き立て役になった感はありますが,麃公さんを現代ビジネス界に放り込んだら,どうでしょう?
ふつうのお堅いサラリーマン組織では,タラタラさぼっているダメ社員。
しかし,「時機」「場所」「仲間」を得れば,ユニークで良い仕事をしそうな気がします。
よく考えれば,武将は主君に仕える意味で,サラリーマンと同じ。
麃公さんは,気ままで自由なフリーランスや個人事業主が向いてそうですね(笑)
達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜信陵君の気炎〜
「これほど顕著に気炎を煽り立てられる者は 天下にただひとり」と蒙驁に言わせる信陵君。
項羽の祖父・項燕(こうえん)はじめ,連合軍全体に信陵君の気炎が伝播します。
<信陵君の気炎が伝播する項燕〜漫画アクション2020/7/7号「達人伝」より〜>
この信陵君の気炎は,ライヴの演者と観衆の盛り上がりに近いイメージでしょうか?
ふと想起したのは,1985年のライヴ・エイドでクイーンが披露した伝説的なパフォーマンス。
Queen - Full Concert Live Aid 1985 - FullHD 60p
あるいは,マーチン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」の歴史的な演説。
【日本語字幕】キング牧師 「私には夢がある」~ Martin Luther King "I Have A Dream"(Japanese Subtitles )
そもそも,「気炎」とは何か?
「志」「器」「熱」が,渾然一体となって発露されるエネルギーとでもいえるでしょうか。
群雄割拠する春秋戦国時代,「戦国四君」のひとりとして歴史に名を残し,秦に対する最後の合従連衡軍をまとめあげた中原の英雄・信陵君の気炎は,いかほどのものか?
現代政治家が吐くポピュリズムの気炎と桁違いであろうことは,想像に難くありません。
<信陵君率いる連合軍〜漫画アクション2020/7/7号「達人伝」より〜>
達人伝第161話「気炎,怒涛のごとく」〜まとめ〜
「冒頭,春申君が足を引きずっているのはなぜ?」
「 まさか信陵君はやられてないよね?馬が斬られただけ?」
「蒙驁は額を斬られたようだけど大丈夫?」
などなど,楽しみは尽きません。
次回に乞うご期待です!
【最新刊の電子版】
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【ガッツリ全部読みたい方】
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