魂熱ジャーナル

〜失われた魂熱(タマネツ)を求めて〜

達人伝(王欣太)第160話「終わりの始まり」感想

【目次】

達人伝あらすじ

「達人伝ってなに?」という方のために,あらすじを紹介します。 

 

中国の春秋・戦国時代。

天下統一を目指す秦に故国を滅ぼされ,親友を殺された荘丹(そうたん)は,秦の野望を砕くことを決意。

 

志をともにする仲間2人(無名=ウーミン,庖丁=ほうてい)と出会った荘丹は,戦国四君(斉の孟嘗君,趙の平原君,魏の信陵君,楚の春申君)の助けを得ながら秦に対抗する力を蓄えていく。

 

2代続いての王の死に揺れる秦に対し,魏の信陵君を盟主に五国連合軍が結成。

荘丹たちは,少年・邦(バン)=のちの劉邦とともに,決戦の地へ繰り出す! 

 

ひとことでまとめるなら,

冷徹で安定した体制の樹立を図る「紳士」(=公権力を持つ人々)と、その阻止を図る「流氓」(りゅうぼう=さすらい歩く人々)の戦いの物語です。

 

作者は,従来の三国志観にパラダイムシフトを起こした「蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生です。 

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「達人伝」は,「キングダム」(原泰久先生)とほぼ同じ時代(正確にはキングダムの数十年前)。

秦王・政や宰相・呂不韋など,「達人伝」「キングダム」両作品に共通する人物の「描き方のちがい」を味わうのもおもしろいと思います。

 

【達人伝公式サイト】

tatsujinden.jp

【無料で読める「達人伝」ダイジェスト版】

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達人伝第160話「終わりの始まり」〜あらすじ〜

秦の丞相・呂不韋(りょふい)のもとを食客志願者が続々と訪れます。

呂不韋の狙いは,天下の学識者を募って古今東西・天地万物を網羅する大著を編纂し,虎狼の国・秦に中原を凌駕する文化を確立すること。

 

呂不韋は,荀子の弟子である楚の李斯(りし),元秦の宰相・甘茂の孫である12歳の甘羅(かんら)など,我こそはという志願者と面談を行います。

そこへ,どうも目立って気になる嫪毐(ろうあい)が登場。

嫪毐は,スモモを食べながら巨根を勃起させて周囲を驚愕させます。

 

◆◆◆◆◆

 

重篤が続く秦王・子楚(しそ)を見舞う呂不韋

 

「太子の交替を願い出たい!」

「いや 私は秦国の丞相として 太子の交替を奏上せねばならぬ!」

「政の性質の中心にあるものは 冷えきった闇だ!」

「政という人間を王にしてはならない!それは私の責務だ!」

 

死の淵にある子楚は呂不韋に語りかけます。

 

「私は…間違っていたの…ではないだろうか…」

「君の…朱姫を…ねだった時に…私の…私の終わりは…始まっていたのではないだろうか」

 

太子の交替を願い出ようとする呂不韋に子楚はいいます。

「政には…王の風格が…備わっている…」

「よく…補佐してほしい…実の父親の…ように」

 

◆◆◆◆◆

 

子楚のもとを退室した呂不韋に抱きつく王后・趙姫(朱姫)。

呂不韋は独白します。

「思えば この人の終わりもまた あの時 始まっていたのではなかったか」

「だが 私は終わらない」

「たとえ 私の天命が この人たちの終わりと 不可分に絡み合っていたにせよ」

「私は ありとあらゆる道理を用いて その天命に抗う」

 

呂不韋は王后にいいます。

「君の不韋はもうそこにはいないんだ」

「でも不韋に似て不韋よりずっと良い者をもう見つけてある」

「うん 嫪毐って言うんだ」

 

◆◆◆◆◆

 

秦の関所・函谷関の東約10里。

戦死した首領・盗跖の亡骸を埋葬するため,戦線を離れる盗賊団を見送る荘丹たち。

 

「行こうか」「いよいよ函谷関だ」「とにかくぶち抜かんとな」

「ああ気炎を上げてこうぜ」「やられてしまった人達の分まで…」「やめろや」

「思い出しちまうだろうがーもー」「ごめん…」「仕切り直しや」

 

大呼吸をしていると,大きな「気」が到来するのを感じます。

 

◆◆◆◆◆

 

「雑魚は無用だーっ」

「おー!?たぶんやつら二人は上もんだぞ」

函谷関で暴れまくる秦軍の桓齮(かんき),楊端和(ようたんわ),麃公(ひょうこう)。

五国連合軍の龐煖(ほうけん ),項燕(こうえん)は前軍を一時撤退させ,崩れた隊列の立て直しを図ります。

 

「ん!?」「ああ!?」「なんだこりゃ」

いぶかしむ麃公たち秦軍の前に「蒙驁おおおお」と叫びながら信陵君率いる連合軍が迫るところで,第160話は終わります。

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<五国連合軍を率いる信陵君〜漫画アクション2020/6/16号「達人伝」より〜>

【前回までの話はこちら】

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達人伝第160話「終わりの始まり」〜嫪毐〜

出ました,嫪毐(ろうあい)。 

嫪毐は巨根で知られる呂不韋食客で,そのイチモツを軸にして馬車の車輪を回して見せたエピソードを史実に残す人物です。

 

ネタバレになってしまいますが,このあと秦王・政(始皇帝)の母・趙姫(朱姫)の元に送り込まれてその寵愛を受け,2人の息子をもうけ,ついには毐国という国まで与えられます。

しかし,趙姫との関係が政に露見し,反乱を起こすものの鎮圧され,最期は車裂きの刑に処せられてその生涯を終えます。

 

巨根ひとつで一国を得た人生,凄くないですか?

男性として,ある種の畏敬の念を抱かざるを得ません……(笑)

嫪毐とはいかなる人物だったのか?

巨根以外の特長や魅力はなかったのか?

 

「キングダム」で描かれる嫪毐は,大柄な体格の素朴なブサメン。

「達人伝」で描かれる嫪毐は,中性的でアンニュイな魅力を持つイケメン。

なるほど,こうきましたか!

 

そして,スモモをねぶりながら,唾液と果汁を巨根にしたたらせて勃起をあらわにする演出。

こんな薄いオブラートに包まれたエロチックなシーン,ゴンタ先生じゃないと描けないでしょう!(笑)

 

想像するに,嫪毐は呂不韋食客として迎え入れてもらうため,自身を売り込む必要があった。

でも,初対面でいきなり服を脱いで巨根を披露しては失礼にあたる(というか漫画的に美しくない)。

そこで,着衣のまま知らしめる方法として,このような演出を考えたのでしょうか?

 

しかし,なぜにスモモ!?

スモモは何かの象徴?古代中国で一般的な果物?携帯するのに便利だったから?

謎は解けませんが,とにかく脱帽です(笑) 

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<呂不韋食客を志願する嫪毐漫画アクション2020/6/16号「達人伝」より〜>

達人伝第160話「終わりの始まり」〜子楚と朱姫

第160話のタイトルは「終わりの始まり」。

英語だと,「the beginning of the end」。

この言葉は,塩野七生さんの「ローマ人の物語」で知りました。

 

1000年以上続いたローマ帝国滅亡の原因を探る研究は膨大な数にのぼり,今なお決定的な結論は出ていません。

滅亡の原因は,ゲルマン民族の大移動かもしれないし,暴君の失政かもしれないし,ローマ市民の民度の低下かもしれない。

だがきっと,「終わりの始まり」はあったのではないか?

 

◆◆◆◆◆

 

秦王・子楚は,死の淵で呂不韋に告げます。

呂不韋に朱姫をねだった時から,自分の終わりは始まっていたのではなかろうかと。

子楚は朱姫を心から欲し,手に入れた。

幸せの絶頂ともいえるその瞬間から,終わり(=不幸な人生)が始まったのではないかと。

 

「奇貨」として担がれてきたが,ひとりの女性を愛するだけで十分に満足でき,天下統一の野望など抱かない子楚にとって,秦王の座など重圧以外の何ものでもなかった。

 

「死の淵で あなたは そのようなことをーーー」

自己の野望を実現する投資対象として,私情を抑え冷徹に対応してきた呂不韋

しかし,この涙には人並みの同情という感情と,死を前にした人間が示す真情=後悔へのおののきが感じられます。

 

◆◆◆◆◆

 

朱姫もまた幼くして両親を亡くし,そのトラウマから記憶をなくし,旅芸人一座として暮らしてしていたところを呂不韋に見出され,幸せな日々を送ってきた。

朱姫の終わりの始まりは,呂不韋の子,すなわち後の秦王・政を身ごもった瞬間から。

 

子どもの頃から手塩にかけて様々なことを呂不韋に仕込まれてきた朱姫。

愛する呂不韋との間に新たな命を授かった朱姫。

幸せの絶頂を迎えた朱姫。

そのような朱姫を,生涯最大の投資対象である子楚に求められた呂不韋は,悩みながらも即座に譲ることを決断します。

 

呂不韋に見捨てられた朱姫。

さらにその後,秦と趙が戦争に突入する混乱の中で朱姫は政とともに趙へ取り残され,呂不韋に2度捨てられます。

命を狙われ続ける7年の過酷な日々を経て秦へ行き,夫・子楚が秦王となるものの,両親が殺された記憶を取り戻したことを機に,朱姫は正気を失っていきます。

 

◆◆◆◆◆

 

何が幸せで,何が不幸せなのか。

禍福はあざなえる縄の如し。

人生万事塞翁が馬。

終わりの始まりとは,成功の絶頂期に始まるもの。

ただし,その時はわからず,振り返って気づくもの。

 

子楚と朱姫。

複雑怪奇に絡み合う終わりへの因縁を自覚しつつ,呂不韋はしぶとくその運命に抗おうとします。

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 <呂不韋,子楚,朱姫〜漫画アクション2020/6/16号「達人伝」より〜>

達人伝第160話「終わりの始まり」呂不韋

あらためて考えるに,呂不韋はさすらい歩く商人=流氓(りゅうぼう)から,秦国最高レベルの権力をふるう丞相=紳士へ転身を遂げた傑物です。

現代日本でいえば,孫正義さんや堀江貴文さんが首相になるようなイメージでしょうか?

 

信賞必罰が徹底した法治国家の秦とはいえ,子楚の後見人だったとはいえ,呂不韋の優秀さは抜群だったのでしょう。

その呂不韋が,秦国の丞相として政を王位に就けてはならぬ!といいます。

 

政の性質の中心にあるのは,冷え切った闇。

そのような資質を持つ者が王になっては,秦は大混乱に陥るだろうと。

 

さらに呂不韋は,政がそのような闇を持つ理由を知っています。

それは,ほかならぬ呂不韋自身が持つ闇。

政はその闇を色濃く受け継ぎ,増幅させたのでしょう。

 

子が闇の部分を引き継ぐのは,自身の嫌な点を鏡で見せつけられるようなもの。

ましてそれが,周囲を恐怖に陥れる類の性質であれば,「危険な息子を社会に放つわけにはいかない!」と抑止する父親のような心情でしょうか。

 

ところが,秦王・子楚は,「実の父親のように」政を補佐するよう呂不韋に言い遺します。

これは,子楚の痛烈な皮肉でしょうか?

それとも,本当の親心からの言葉でしょうか?

 

政は,自分と似るところはまったくない。

一方で,呂不韋とは顔も冷徹な性質も似ている。

 

不遇時代から自分を支え続け,秦王の座まで就かせてくれたことには感謝しているが,政が自分の子供でないことはうすうす気づいていた。

だが,どんな酷薄な性質を持つ子であろうと,自分より王の風格を持つことは間違いない。

実の父親である優秀な呂不韋が補佐すれば,王としての務めを立派に果たせるであろう。

 

ほとんど言いなりになってきたが,最後の最期に一矢報いた子楚。

呂不韋は子楚の復讐心,あるいは政の重大な欠陥に気づかぬ愚かしさに,天井が歪んで見えるほど愕然としたことでしょう。

 

しかし,それでもなお,自身の「終わりの始まり」を自覚しつつ,天命に抗う呂不韋のしぶとさ。

 

スタートアップ企業の支援に力を入れているサッカーの本田圭佑選手は,経営者の「生命力」しか見ないそうです。

当初の計画など,予定どおりうまく進むわけがない。

土壇場に追い詰められたとき,不屈の生命力を発揮して立ち上がってこられるかどうか?

それだけを見極めて,支援を決定するとのことです。

 

呂不韋が秦の丞相まで登り詰めることができた理由も,その飄々とした外見からは想像できないほど図太い「生命力」の所以でしょう。

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達人伝第160話「終わりの始まり」まとめ〜 

第159話の展開からすると,信陵君率いる五国連合軍が一気に函谷関へ襲いかかるかと思いきや場面は変わり, 呂不韋,嫪毐,子楚,朱姫の登場により今後の重要な伏線が張られました。

次回こそ,連合軍と秦軍の最終決着か?

乞うご期待です!

 

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