達人伝(王欣太)第155話「黒い嵐」感想
漫画アクション連載「達人伝」(王欣太・作)第155話「黒い嵐」を読みました。
【前回154話のレビュー】
【目次】
達人伝あらすじ
「そもそも,達人伝ってなに?」
という方のために,あらすじを紹介すると……
中国の春秋・戦国時代。
天下統一に迫る秦により国を滅ぼされ,親友を殺された荘丹(そうたん)は,秦の野望を砕くことを決意。
志をともにする仲間2人と出会った荘丹は,戦国四君の助けを得ながら,秦に対抗する力を蓄えていく。
2代続けての王の死に揺れる秦に対し,魏の信陵君を盟主に五国連合軍が結成。
荘丹たちは,少年・邦(バン)=のちの劉邦とともに,決戦の地へ繰り出す!
無理を承知でひとことでまとめるなら,
「冷徹で安定した体制の樹立を阻止しようとするアウトローたちの熱き戦いの物語」
作者は,従来の三国志像を破壊し,まったく新しい世界観を創造した傑作「蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生です。
ちなみに,「達人伝」の舞台は,原泰久先生の「キングダム」より数十年前〜ほぼ同じ時代。
たとえば,秦王・政や秦の宰相・呂不韋など,「達人伝」「キングダム」両作品に共通して登場する人物の「描き方のちがい」を味わうのもおもしろいと思います。
【達人伝公式サイト】
【無料で読める「達人伝」ダイジェスト版】
https://www.futabasha.co.jp/tachiyomi/reader.html?pc=1&fd=tatsujinden_digestLR
達人伝第155話「黒い嵐」〜全体の感想〜
なんなのでしょう,この感情は。
自分のことを子や孫のように慈しみ可愛がってくれていた人物が,「圧倒的な武」の前に,虫けらのように吹き飛ばされる残酷さ。
ほんのついさっきまで,あたたかい笑顔で言葉を交わしていた人物が,「理不尽な暴力」の前に,一瞬で物体と化す非情さ。
そして,自分にとっては大切でかけがえのない人物の死を,「冷徹な悪意」であざ笑い,もてあそぶ存在の不条理。
悲しみ,怒り,混乱が渦巻く戦場で,運命が両雄を出会わせた。
コレ,キャッチコピーとしてよくないですか?
王欣太先生,双葉社さん,アレンジしたりご自由にお使いください(笑)
達人伝第155話「黒い嵐」〜展開〜
前半は,戦場でありながら「静」の印象です。
連合軍の左翼,右翼,遊撃,先鋒,本隊と紹介していき,「秦軍をいよいよ切り崩せるか!」というところで,荘丹の視点の「つなぎ」。
後半の「動」へ一気に転換する流れとそのギャップは,確実に心拍数を上昇させます。
<主人公の荘丹(漫画アクション2020/3/3号「達人伝」より)>
達人伝第155話「黒い嵐」〜カメラワーク〜
今回,特に驚いたのは「視点」,映画でいう「カメラワーク」。
若干ネタバレになりますが,「殺される側の視点」。
より正確にいうと,「殺された人物が,完全に意識がなくなる前に見えているであろう景色」を描いているシーンです。
そして,ページをめくると,その「死ぬ前の景色を見ていた人物」は,完全に「見られる側の死体という景色の一部」になっているという残酷さ,切なさ……
達人伝第155話「黒い嵐」〜黥骨の存在感〜
そして,圧倒的に際立つのが,黥骨(ゲイコツ)の暴風雨のような武。
なんなのでしょう,この人は。
やりたい放題めちゃくちゃ殺戮しまくりますが,敵が憎いからではない。
主君の命令に従い,行手を遮る者を排除する。
ただ,それだけ。
かといって,何も考えていない冷徹な「殺戮マシーン」とも異なります。
もしかしたら,「自分の生きる意味,存在意義を確認したい!」「自分を必要としてくれる人物に応えたい!」という「承認欲求の塊」なのでしょうか?
現代で「承認欲求」といえば,SNSでフォロワーが増えると満たされるような類のものと考えられますが,ゲイコツの場合,フォロワーが1万人でも1億人でもおそらく関係ない(笑)
世は弱肉強食こそが絶対的なルールであり,ゲイコツの武の価値,存在意義もそこにある。
しかし,荘丹たちはマイナーな弱者でありながら,仲間との共感連帯をベースにして,しつこく,しぶとく,あらがい,おびやかす。
弱肉強食の鉄則に逆らおうとする荘丹たちの「理外の理」のような存在を,オレは決して認めない!
ゲイコツの狂気じみた嵐のような武は,自己承認欲求と表裏一体の「怒り」なのかもしれません……
【達人伝第155話「黒い嵐」掲載「漫画アクション」】
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