【達人伝とは?】春秋戦国時代を舞台にした熱き物語
【達人伝とは?】春秋戦国時代を舞台にした熱き物語
【目次】
「達人伝」とは?
従来の三国志のイメージを一変させた「蒼天航路」(1994〜2005年連載)の作者・王欣太(キングゴンタ)先生が,2013年から連載している作品。
蒼天航路は,私的には「ビフォー蒼天航路,アフター蒼天航路」。
つまり,この作品を機に,日本の三国志世界にパラダイムシフトが起きたのではないか?と思うほどの衝撃作です!
王欣太先生とは,20年くらいずっと会いたい!と願っており,2019年に実現。
気難しい先生かと想像していたら,サービス精神あふれる気のいいおっちゃんでした(笑)
でもやっぱり超一流のクリエイター!と尊敬できる素晴らしい方です。
ちなみに,「王欣太」は中国人ぽい名前ですが,「蒼天航路」に取り組んだとき中国人になりきって描くぞ!と勢いでつけたペンネームだそうで,ばりばりコテコテの関西人です(笑)
「達人伝」あらすじ
舞台は,紀元前の中国・春秋戦国時代。
荘子の孫・荘丹(そうたん)は小国に住む兵士だが,ある日,強国・秦の手引きで侵攻してきた隣国・斉により,王と親友を殺される。
自身も殺されそうになるが,「9年の間に秦に対抗できる達人たちを集める!」と大ボラを吹き,その意気やよしと命を救われる。
荘丹は、達人たちを探す旅に出かけ,2人の仲間や戦国四君(孟嘗君,平原君,信陵君,春申君)や天下の大泥棒・盗跖(とうせき)などと出会い,打倒・秦を目指していきます。
「達人伝」の魅力その1
2019年9月現在,24巻まで刊行されており,特に前半では秦の将軍・白起(はくき)の存在を語らないわけにはいきません。
生涯に落とした城の数は70を超え,殺害した敵兵はおよそ100万人。
100万人ですよ!
ヒトラーやポルポトも数百万人の人々を虐殺しましたが,彼らは直接指揮をとったわけではありません。
白起は将軍として自ら軍の指揮をとり,13万人を斬首したり,2万人を黄河に沈めたり,40万人を生き埋めにしました。
古今東西の歴史を見ても,個人の名前を冠する戦いで,これほど多くの人間を殺した人物はいないでしょう!
<泣く子も黙る最強,最恐,最凶将軍の白起>
そして,この白起,達人伝中ナンバーワンのイケメンなのです。
以前,欣太先生は,漫画好きの芸妓さんに「ゴンタはんの漫画にはイケメンが登場しはりませんなあ」と言われたそうです(笑)
欣太先生としては,「蒼天航路」の曹操や周瑜をイケメンに描いていたつもりだったけれど,あれはイケメンではないと。で,「いつか文句なしのイケメンを描いてやる!」と
ふつう,これほどの虐殺実績を見ると,およそ人間とは思えない,とんでもなく凶暴な悪魔か魔王のような顔に描きそうなものです。
しかし,美形の整ったイケメンに描くことで,とうてい理解できない,理解したくもないような「怪物・白起」ではなく,「人間・白起」の理解へのハードルがグッと下がりました。
現代風にいえば,白起は「サイコパス」ですが,彼の獲得した理(ことわり),つまり白起がいかに育ち,戦い,悩み,生きていくか,最強・最恐・最凶の最期に哀しさを禁じえません。
「達人伝」の魅力その2
他にも魅力的な人物が続々登場します。
たとえば,呂不韋(りょふい)。
「奇貨居くべし」の言葉を残し,商人から秦の宰相にまで登りつめた傑物です。
秦の昭王が亡くなり,その子の孝文王が王位を継ぐも3日後に死亡し,趙の人質時代から「奇貨」として保護してきた王子が荘襄王となり,呂不韋は宰相の座に就きます。
商人としてきわめて有能ながら,藺相如との出会いを通じて自身の欲望の奥底と向き合い,一介の商人を超えて変貌していく様は,「人間の器」「欲望の深さ」を考えさせられます。
< 商人から秦の宰相に登りつめた呂不韋>
「達人伝」の魅力その3
たとえば,朱姫(しゅき)。
呂不韋の子をひそかに宿しながら,呂不韋が「奇貨」として投資する王子に嫁がされ,そのお腹の子が後の始皇帝となる女性です。
朱姫は,いったいどのような想いで嫁いだのでしょう?
呂不韋に対する恨み,わが子に対する愛おしさ,王子に対する憎しみなど想像するに余りあり,いろいろ意味で史上最凶といえる懐妊は怖いですね〜
<始皇帝の母・朱姫>
「達人伝」の魅力その4
たとえば,盗跖(とうせき)。
伝説の大盗と呼ばれ,達人伝前半で白起と並んでひときわ輝く存在です。
「兄貴!」と頼りたくなるような漢気あふれる存在。
世の中の窮屈なルールに縛られない,自由自在な生き様がカッコいい!
「流氓」の代表的存在であり,虎狼の国・秦を穿つべく立ち上がりますが,そこに立ちはだかるのは最強・白起。その勝負の結果や,いかに!?
<伝説の大盗賊・盗跖>
「達人伝」の魅力その5
「紳士(しんし)」と「流氓(りゅうぼう)」という概念を聞いたことがあるでしょうか?
「紳士」は,上品で礼儀正しい「ジェントルマン」の意。
「流氓」は,以下のような意味です。
(「流亡」と書くのが一般的と思いますが,ここではあえて「流氓」と書きます)
・「紳士」:公権力を持つ,上流社会の人 (例)政治家,官僚
・「流氓」:定住地を持たず,さすらい歩く人 (例)商売人,アーティスト
歴史は「紳士」とともに,歴史に記されない「流氓」が形成するもの。
たとえば明治維新など,西郷隆盛,大久保利通などの紳士が幕府を覆し,坂本龍馬などの流氓がその底流を形作ったと見ることもできます。
勝者が記す歴史に残らない裏舞台にスポットライトを当て,中華史上初の統一へ向かう混乱怒涛の時代に生きる紳士と流氓の物語,それが「達人伝」なのです。
「達人伝」と「キングダム」
「達人伝」は,「キングダム」(原泰久先生・集英社)とほぼ同じ時代です。
(正確にはキングダムの数十年前)
キングダムは,主人公の信が秦王・政とともに天下統一を目指し,成長・活躍していく王道の物語で,アニメ版・実写版が映画化されている人気作品です。
キングダムは,最新の連載誌までひととおり読んでおり,物語の展開も迫力ある画力も素晴らしい作品と思いますが,個人的には「蒼天航路」以来,王欣太先生の大ファン。
キングダムとほぼ同じ春秋戦国時代を描きながら,
・史実に残らない流氓(りゅうぼう)が歴史を動かす斬新な視点
・自由を追求して,権力や体制にあらがい連帯する姿勢
・史実を押さえつつ,予想を遥かに超える解釈と描写
・水墨画調はじめ,自由闊達でのびやかな画風
・命を超えて受け継がれる熱い「侠」の魂
などの点において
「達人伝」は「知性と感性を圧倒的に刺激する大人向けの作品」です!
もちろん,人それぞれ好みの違いはあります。
誤解のないよう補足しておくと,キングダムが子ども向けというわけでは,決してありません(笑)
ある意味で,描き尽くされた「王道路線の歴史もの」のレッドオーシャンで,キングダムが多くの人に受け入れられていることは,難事中の難事であり,正義であり,素晴らしい。
私自身,純粋に楽しむエンターテインメント作品という意味で,キングダムはめちゃくちゃおもしろいと思います。
とはいえ,総合的にはキングダムより断然「達人伝」推しなんですけどね!(笑)
キングダムを読んだり,観たりしたことがある方は,「達人伝」と「キングダム」の共通点や違いを比較する観点から楽しむのも,おもしろいと思います!
【あわせて読みたい】
漫画アクション連載中の最新の「達人伝」の感想はこちら。
ゴンタ先生の20年来のファンとして,毎回全力でレビューしています!
「このシーンにこんな意味があったのか!」と目からウロコが落ちるかも!?