史上最大のNOGUSO作戦
突然ですが、屋外で固形物の排泄行為(いわゆる野○ソ)をしたことがありますか?
私はあります。
子どものときではなく、大人になってから。
春の兆しを感じさせる、なま暖かい冬の日の出来事でした。
【目次】
【終わりの始まり】
その日は朝から、おなかの調子が少々変でした。
最寄りの地下鉄の駅を降りてから、職場まで徒歩20分。
イヤな予感を抱えながら「まあ、20分くらい、大丈夫だろう」と歩き始めました。
しかし案の定,歩いて5分ほどすると、猛烈な腹痛が襲ってきたのです。
ふだん、私のおなかは従順な兵士のように、「今は大事な時じゃ!静かにしておけい!」と命じると、不穏な気配が多少あっても、しばらくはピタリとおとなしくなるのです。
ところがその時は「今までさんざんガマンしてきたが、もう耐えられねえ!」と反乱を起こす勢いで、腹痛が暴れ始めたのです。
私はあせりました。
「冷たい脂汗が流れる」という経験をしたのは、人生であれが初めて。
立ち止まってしゃがみ込んだところ、さらに圧が強くなり、あわてて立ち上がりました。
「腸の活動を抑えたらどうだ?」とスーツのベルトをギュッと締めたところ、逆効果だったようで、さらにさらに圧が増大。
「天は我を見捨てたもうたか!」
空を仰いでから、「いかん、この上を見る姿勢は便秘に効くポーズだった」と思い出しました。
水がいっぱい入った透明のビニール袋につまようじをそっと当て,あとほんの少し力を入れたら破裂するようなギリギリの感覚。
本当にもう、これ以上耐えがたくなりました。
【安西先生の声】
そのとき
「あきらめたら、そこで試合終了ですよ…?」
多くの通勤サラリーマンが行き交う路上で、ひとり立ちつくす私。
顔面蒼白、脂汗を流しながら、悪寒でガチガチ奥歯を鳴らし、握りしめた拳の爪を手のひらに食い込ませ、全身を震わせながら、安西先生の言葉を一途に信じ、さらに耐えました。
すると、天使が舞い降りてきたのです。
あの耐えがたい激甚な腹痛が,スーッと引いたのです。
【悪魔再来】
再び、私は歩き始めました。
あと15分。
15分歩けば職場に着き、トイレへ駆け込むことができます。
「あわてるな、落ち着け。あわてると、再びあの腹痛が襲ってくる!」と自分に言い聞かせながら歩くこと5分。
悪夢再来。
しかも、前にも勝る圧倒的、絶望的、悪魔的な勢いで。
「安西先生!トイレがしたいです!」
涙目になりながら空を見上げましたが、雲の形をした安西先生はニコリとするだけで、何も答えてくれません(幻視)
【極限状態での決断】
ガクブル状態でハッと我に返った私は、最寄りのトイレを探し始めました。
ところが、このあたりはコンビニや飲食店がなく、20分の通勤ルートの中間地点。
もっとも近いトイレは10分先の職場か、10分戻った地下鉄駅のトイレしかありません。
とても10分など歩けそうになく、せいぜい10歩。
かつ、1分以内。
可及的速やかに決断、行動しないといけません。
【史上最大の作戦】
以下、心の声です。
「殿、ご決断を!」
「漏らすという恥辱は耐えられませぬ!」
「そのへんの家に駆け込み、トイレを借りてはいかがか?」
「断られたらどうする?もはや猶予はない!」
「皆の衆,あいわかった!NOGUSO作戦を決行する!総員配置につけい!」
(この間20秒)
かくして、自分史上最大レベルのリスクを抱えた「NOGUSO作戦」が始動。
まずは,最大の懸案である「投下ポイント」を,アパート裏の物陰になっている空き地に決定。
(この間20秒)
作戦完遂に必要となる戦略物資(ティッシュ)を確認し、敵兵(住民、通行人)に見つからぬよう最短最速、小走りかつ内股で移動。
(この間10秒)
そして、最も重要かつ危険なのが、危険物を投下するまでの一連の動き。
「間に合った!」と油断してお尻の括約筋を緩めてしまうと、「ああ〜っ」と全作戦が瓦解しかねません。
しかし、そこは優秀なわが肉体。
天使のように大胆に、悪魔のように細心に、完璧に作戦を遂行しました。
(この間10秒)
【世界は美しい】
「ああ、なんて世界は美しいんだ!安西先生、ありがとうございます!」
スッキリ晴れ晴れした気持ちになった私は、安西先生が助けてくれなかったことも忘れ、思わず声に出してつぶやきました。
なま暖かい風が,やさしくお尻をなでていきました。
「鼻セレブ」が「尻セレブ」になったというわけです。
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