「二番目の悪者」(絵本)〜空気を読み行動しない傍観者への警鐘〜
「二番目の悪者」(絵本)〜空気を読み行動しない傍観者への警鐘〜
以前,友人に勧められ購入した「二番目の悪者」(絵本)を,久しぶりに読み直しました。
帯には「考えない,行動しない,という罪」「これが全て作り話だと言い切れるだろうか」とあります。
子どもでもさらっと読める内容ですが,「空気に流されやすい日本人」にはとても耳が痛く,示唆に富む良書です!
【目次】
【二番目の悪者(絵本)〜あらすじ〜】
気がやさしく,働き者の銀のライオンは,動物たちの信頼を集めていた。
見栄っ張りで嫉妬ぶかい金のライオンは,銀のライオンが腹立たしくて仕方ない。
そこで,根も葉もない銀のライオンの悪口を言い立てた。
「銀のライオンがそんなことをするわけない!」と否定する動物もいたが,特に悪気もなく伝聞され噂が噂を呼び,「じつは銀のライオンは乱暴者だ!」という噂が真実味を帯びていく。
その後,国の王様を決める投票があり,思惑どおり王の座を獲得した金のライオンだったが,わがまま放題の統治を行ったため,国は荒廃していった。
いったいなぜ?
ほんとうに,金のライオンだけが悪かったのでしょうか?
【二番目の悪者(絵本)〜線路に石を置いた者,見過ごした者〜】
「二番目の悪者」を読んで,思い出した話があります。
それは,線路に石を置いて列車を脱線させ,大事故を引き起こした者がいた。
線路に石を置いた者が悪いが,石に気づきながらどかさなかった者も同罪,という話です。
これには,様々な反論が可能です。
「石が大きくて動かせなかった!」
「あれくらいの大きさなら問題ないと思った!」
「誰かが動かすと思った!」
「自分だけでなく他の人も見ていた!」
などの言い訳です。
たしかに,そのとおりかもしれません。
しかし私たちは,ともすると日常的に「主体者」ではなく「傍観者」となり,線路の石を見過ごすよう行為をしていない,絶対にしていないと言い切れるでしょうか?
私は,少々不安になります。
【二番目の悪者(絵本)〜戦艦大和の特攻を意思決定した海軍〜】
第二次世界大戦末期,世界最大・最強の不沈艦と言われた戦艦大和は,アメリカ軍が制海権を握る沖縄方面へ航空機の護衛をつけず出撃。
待ち構える大量のアメリカ航空部隊の猛攻撃をくらい,敵艦隊とまみえることなく,沖縄沖で撃沈されました。
この作戦は,当時の作戦参謀の言葉によれば,「作戦として形を為さない」もの。
国内最高レベルの教育を受けていた首脳部が,なぜ無謀な特攻を意思決定したのか?
じつは,決定軍議に参加せず,後日,参謀から説明を受けた長官がいました。
頭脳明晰,百戦錬磨の長官は,なぜ大和が無謀な特攻を行うのか理解できません。
説明を行う参謀も,「いかなる状況にあろうとも,裸の艦隊を敵機動部隊が跳梁する外海に突入させるということは,作戦として形を為さない」と言い,大和の特攻は全く筋が通らない。
しかし,「一億総玉砕の魁(さきがけ)となってほしい」と説明を受け,会議を支配していた「空気」に思い至り,「それならば何をかいわんや。よく了解した」と長官は答えます。
この「了解した」というのは,「これは論理ではなく,空気によって決まったこと」「であれば,すべての議論や反論も無意味であること」を了解した,ということです。
「空気」の前に,いかなる論理も作戦も吹っ飛んだ瞬間です。
【二番目の悪者(絵本)〜いじめの構図〜】
いじめも「空気」が支配する部分が大きいのではないでしょうか?
いじめの構図としては,
①中心となっていじめている人
②積極的に加担している人
③加担しないが黙認している人
④明確に反対している人
の4つに分類できると考えられます。
多くの場合,大多数を占めるのは②と③。
いじめられた人がもっとも傷つくのも,おそらく②③によるものです。
その場の「空気」に流されて「傍観者」となり,積極的な「行動」を取らないことで,私たちは取り返しのつかない過ちを犯す可能性があります。
【二番目の悪者(絵本)〜なぜ空気に流されやすいのか?〜】
日本人は,なぜ空気に流されやすいのでしょうか?
その理由は,江戸時代の五人組制度に代表されるように,連帯責任を追及する時代が長く,遺伝子レベルで染みついてしまったためではないか,と推測されます。
すなわち,空気に流されやすい,同調しやすい日本人の特質は,セロトニンをはじめとした脳内ホルモンの影響。
遺伝学的にも,数世代にわたる外的環境が継続されれば,人間の身体は環境刺激に適応して変容するそうであり,この体質は江戸時代に確立されたと考えられます。
【二番目の悪者(絵本)〜まとめ〜】
私たち日本人は,体質的に空気に流されやすいかもしれません。
しかし,それはおそらく,ここ数百年程度で確立されたものであり,過去を教訓として意識することでその弊害を減らし,変えていくことが可能ではないでしょうか?
特に,「空気を読むこと」を日常的に強いられている小中学生に,読んで,考えて,みんなで話し合ってほしい良質の作品です!
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