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のらりーパーソン〜きくっちの日記〜

【王欣太作「地獄の家」レビュー】「蒼天航路」破格の人・曹操のモデル

先日,友人が勧める小説を読んだところ,最後まで全然おもしろくなくて,びっくりしました(苦笑)

なぜ,つまらないのか?

 

信頼する複数の友人が勧めるのだから,私の感性がおかしいのではないか?

そう思って読み返そうとしましたが,読み返すことすら気が進まずおっくうで,そっと閉じました。

 

なぜ,つまらないのか?

 

これまで,「つまらない」と感じた本の共通点を分析してみたところ,キーワードは「非日常性」「ドラマチック性」「不可解性」の3点。

淡々とした日常を描くだけ,盛り上がりに欠ける,理解力と想像力の範囲内に収まり未知や不可解性がない作品は,私にはつまらなく感じるのです。

 

久しぶりに読み返した「地獄の家」は,「非日常性」「ドラマチック性」「不可解性」が三拍子そろった,ワクワクしておもしろい作品です。

 

【目次】

【「地獄の家」とは?】

「地獄の家」は,王欣太先生のデビュー作「HEAVEN」に続き,1992〜1993年にアフタヌーン誌上で連載された作品。

講談社漫画文庫刊,全26話,上・下巻計約1,200ページ。

 

王欣太先生といえば,「蒼天航路」が有名です。

吉川英治はじめ,劉備を主人公とする「三国志演義」に親しんできた私は,「蒼天航路」の曹操の破格っぷりに,「冷酷非道な悪役じゃなかったの!?」と,頭をこん棒でぶん殴られるほどの衝撃をおぼえました(笑)

 

実際のところ,正史「三国志」の作者・陳寿は,曹操のことを「破格の人」と評しており,実像は「三国志演義」より「蒼天航路」の描く曹操像に近いのではないでしょうか。

 

そして,破格の人・曹操を彷彿とさせ,この人物をベースに曹操を創り上げたであろうキャラクターが,「地獄の家」の主人公・北晴郎(きたはろう)です。

 

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【「地獄の家」のあらすじ】

裏表紙に掲載されているあらすじを紹介します。

強烈な個性の怪物俳優・北晴郎ー崇拝,憧憬,憎悪,反発ー。

息子・享一や,隣の名門俳優一家・星山の面々は,晴郎に呪縛され,本性を暴かれ,彼らは地獄の様と化すのだった!

天才女流監督・怜子のもと,享一主演,星山一家共演の映画が撮られる。だが怜子は,役者の人格を破壊し屈服させるのだ!

晴郎は,家族らが廃人と化そうと,あくまでも我が道を突き進む!

誰も晴郎から目が離せない!

まさに,北晴郎という破格の人物のため,家族はじめ周りは振り回され続け,時に反発し,時に崇拝し,時にその支配力から逃れようとする。

しかし,何が起ころうと決してブレない圧倒的カリスマの磁場からは,絶対に逃れられない。

だがそれでよい,それが心地よい!という「地獄の家」なのです。

【「地獄の家」の魅力その1】

とにかく,主人公・北晴郎の一挙手一投足が常識や理屈では理解できず,不可解でありながら一面の真実を突いており,目が離せません。

 

(ここから少しネタバレ)

たとえば,晴郎は妻がいるのに,隣の星山家の高校生の娘と一夜を共にします(娘から押しかけたのですが)。

当然,星山パパは「ゆうべ…何があった?寝たのかあ?」と晴郎を問い詰めます。

晴郎は悪びれた様子もなく,「おう」の一言。

 

あっけにとられながら星山パパが,「貴様〜私の娘に手を出しおって〜どう責任を取るつもりだ!」と激怒します。

すると晴郎は,晴れやかな表情で「結婚しよう」。

奥さんはどうするんだ?奥さんと別れない限り結婚できるわけないだろう!と星山パパが問い詰めると,「そうなのか」と,すっとぼけた表情。

 

殴りかかろうとする星山パパを意にも介さず,空を見上げて「雨だ」。

なんてことをしてくれたーっ!と泣き崩れ落ちる星山パパに,泰然として「死んでもいいのではないか」「舞(娘の名前)は最高傑作だ」「それだけでおまえはこの世に生まれた価値はある」。

【「地獄の家」の魅力その2】

どう思います?

晴郎は言語明瞭,意味不明,支離滅裂,空気が読めず,完全にイカれてますよね?(笑)

自己中心,傲慢不遜,人格破綻と言っていいかもしれません。

 

しかし,この微塵も動揺を見せない泰然自若とした晴郎を見ていると,彼の中の軸を貫くなんらかの哲学,美学があると感じざるをえません。

晴郎は,常に本気で全力で真剣で,その生き方に嘘,偽り,迷いはなし。

彼のその哲学,美学とは,現代社会の常識の枠内に収まりきらない類のものだけれど,人間として,生物としてはおそらく正しい。

 

たとえば,晴郎の「結婚しよう」発言ですが,一夜を共にした異性と一緒になる行為は,動物界ではごくごく当たり前。

話が大きくなるので詳細は省きますが,結婚制度や一夫一婦制度が定着したのは,500〜600万年という人類の歴史から見れば,ごくごく最近のこと。

これらの制度が,私たちのDNAレベル,本能レベルの常識として浸透・定着しているとは,ちょっと思えません。

 

また,晴郎の「それだけでおまえはこの世に生まれた価値はある」発言ですが,たしかに生物にとって何が大事かといえば,死なずに生き延びて良い子孫を残すこと。

その個体がどれだけ弱かろうが愚かであろうが,良い子孫を残すことさえできれば,種としてそれ以上に優先されることはありません。

 

私自身,子供が生まれた時に,「自分の代で遺伝子を絶やさず,次代に引き継ぐ責任を果たせた!」と,理屈でなく動物としての本能がホッと安心したことを思い出しました。

 

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【「地獄の家」まとめ】

断っておくと,私は晴郎の言動を全面的に擁護するものではありません。

「そりゃないわー」という振る舞いも多々あるし,全面的に支持する!など言ったら,世の中の女性すべてを敵に回してしまいそうです(笑)

実際,晴郎のような人が身近にいたら,周りは振り回されて身が持たないでしょう。。。

 

なにやら小難しい話をしてしまいましたが,Don't Think,Feel!

作者の王欣太先生は,とにかくおもしろいことが大好きなので,真剣の中に笑いあり,笑いの中に真剣あり。

純粋にエンタメを楽しみながら,意識の奥底で感じ,考えさせてくれる作品なので,興味を持たれた方はぜひ!

 

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