映画レビュー「オリエント急行殺人事件」
1934年,アガサ・クリスティの推理小説が原作。監督・主演はイギリスの実力派ケネス・ブラナー。
原作は80年以上前に書かれた古典ですが,その意外な結末は,21世紀に生きる私たちにも新鮮な驚きと感動をもたらしてくれます。
【この映画を観てほしい人】
・犯人推理や論理的思考に自信がある人
・意外な結末にあっと驚き感動したい人
・オリエント急行が走る中東~フランスの異国情緒あふれる美景を観たい人
【あらすじ(犯人は伏せています)】
キリスト教,イスラム教,ユダヤ教,3人の聖職者が容疑者とされた難事件を,いとも簡単に解決したエルキュール・ポワロ。
「世界一の名探偵」とも言われるポワロは休暇を取り,オリエント急行列車でエルサレムからフランスへ向かう途中,列車内で殺人事件が起きます。
被害者は,前日にポワロに身辺警護を依頼してきたアメリカ人大富豪ラチェット。彼は12ヶ所も刺されて死亡しており,ポワロはやむなく休暇返上で乗客全員に聞き込み調査を行います。
が,なんと全員にアリバイあり。
疑わしい状況証拠や犯行動機はつかむものの,他の状況証拠と整合性が取れず,決め手に欠け,捜査は暗礁に乗り上げます。
ポワロはさらに丹念な調査と推理を重ね,ついに事件の核心に迫ります。
しかし,衝撃の真実を前にして,真実と正義どちらを優先すべきか,深く懊悩します。そして,ある決断を下します。
【所感】
「アガサ・クリスティのオリエント急行殺人事件」と言えばその代表作であり,ミステリーの名作中の名作。かつて読んだことがあり,結末を知っている人も多いかもしれません。
私も昔読んだ記憶がありますが,幸いなことに結末をすっかり忘れていたので,新鮮な気持ちで楽しむことができました。記憶力が悪いと,たまにはいいこともありますね(笑)
この衝撃的な結末は,ミステリー界の常識を覆したのではないでしょうか?
天才的なトリックや意外な犯人に驚くことはしばしばありますが,この結末は,推理小説の基本的な枠組みを越えた想定外。
論理的思考・垂直思考が得意な人は泥沼にハマり,直観的思考・水平思考が得意な人の方が真実に到達できるかもしれません。
さらに,この作品の素晴らしいところは,犯人の意外性にとどまらず「真実か,正義か」を鋭く迫る点。
1人の命が奪われた事実が,どれほど深く癒えることのない傷を残すのか,その悲しみが切実に胸に迫ります。
西ヨーロッパ人にとって東方(オリエント)は異文化圏であることから,その名を冠したオリエント急行。1883年にパリ-イスタンブール間で運航を開始し,区間や経由地を変えながら100年以上に渡って存続してきたものの,2009年に廃止。
現在は,当時の車両を復元した「ノスタルジー・イスタンブール・オリエント急行」等の観光列車があります。
本作では,オリエント急行が出発する美しいエルサレムの街並みはじめ,荒野の地平線に沈む夕日や山岳地帯の雪景色など美しい景観が随所で紹介され,思わず息をのみます。願わくば映画館の大スクリーンで観たかった。。。
往時のオリエント急行と絶景に思いを馳せながら,アガサ・クリスティのミステリーワールドをぜひご堪能ください。